Phase.1 見鏡琴音のエゴイズム③
「生まれた意味を問いかけるなら、きっとそれは見当違いだと思うよ」
「見当違い?」
「そうさ。それを考えるのは、あなたの『仕事』だ。僕の『仕事』じゃない」
「だから……仕事とか、人格とか、どうでもいいんだけれど。私にとっては、あなたが彷徨かれるのは迷惑と言っても過言では無いのだけれど」
「でも、それを望んでるのはあなただ」
「…………私が? それを望んでいる、って?」
「そうだ。あなたがそれを望んでいる。だから、僕はそれを否定することなど出来ない。出来やしない」
つまり、それって。
ただの言い訳に過ぎないのでは無いだろうか。
ムーンライトは告げる。
「あなたがどう考えようと、それは僕に関係の無い話。だけれど、あなたにとってみればそれはどうなる? 僕という人格を消すことは、あなたには絶対に出来ない。賭けても良いよ。今のあなたには、僕を消そうなんてことを考えることは出来ないはずだ」
「どうして? どうして、あなたはそこまではっきりと言い切れるの?」
「それはね」
風が吹く。
その風に誘われるように、彼女はゆっくりと姿を消していく。
「それは、あなたが一番知っていることでは無いかな?」
そうして。
ムーンライトはそのまま姿を消した。
ムーンライトは、跡形も無くどこかへ消えてしまった。
その意味が私にとって分からないことだったけれど。
でも、きっと、ムーンライトには分かっていることなのだと思う。
そう思うことしか出来なかった。
◇◇◇
ビルの屋上で、一人の少女を眺めるムーンライト。それは、かつて同じ存在だった彼女だった。その存在は、彼女にとっては、どうでも良い存在だったのかもしれない。しかしながら、それでも彼女に取ってみれば創造主であり、想像した存在であり、想像された存在だ。だから、消し去ることも消え去ることも消し去ろうと思うことも出来やしなかった。
「不安かい、ムーンライト」
声が聞こえた。
「何故、僕の名前を知っているのかなあ?」
「知っているとも。僕は何でも知っている」
何でも知っている。
その人間は、人間としてはあまりにも不気味すぎた。
「そう。君が思っている通り、僕は人間じゃない」
両手を広げた彼は、浮かび上がるような姿勢を取った。
「僕は、神だ」
「は?」
「だから言っただろう。僕は神だ、と」
それを聞いた彼女はぷいとそっぽを向いて、階下の摩天楼を眺めた。
「ついてくるつもり?」
「僕は暇だからねえ。いつまでもついていくつもりさ。君への興味が無くなるまでね」
「……変な人」
「だから、僕は神だって」
そうして。
ムーンライトは、そのまま階下の摩天楼へと飛び降りた。