romanzetto -ロマンゼット-
僕は考えていた。
果てない哀しみの砂漠を歩き続けたところで、足跡は風に吹き消され、何も残らない。
染みる記憶……………裏腹に風化する時間。
儚の文字が如く、人の夢は太陽の下の朝露のようにいずれ蒸発して消え失せる。
何よりも僕自身の為に、僕が愛していれさえばいいと思い込もうとしていた。
それが幸福というものなのだと、信じようとしていた。
でも、実際は違ったんだ。
いつまでもいつまでも、歌わなくなった小鳥の篭を抱きしめ、僕は途方に暮れていた。
僕の来た道は、確かに存在していた。
だけれども、そこで僕が歩んだ足跡は確かではなかった。
どんなに力いっぱい踏みしめても、また風がさらっていく。
僕自身には、どんどん哀しみが降り積もっていくというのに、僕の後には何も遺らない。
僕の存在した記憶は、誰にも気付かれずに消えていくんだ。
僕が誰かを愛した記憶さえも、僕が誰かに愛されたかもしれない想い出さえも…
僕と共に誰にも気付かれずに消えていくんだ。
゛僕は篭の蓋を開けて、小鳥を放してやる。
おそらく、もう、出会うことはないだろう。
…永遠に触れることすらないはずの天空に向かって放ってしまうのだから…
自由を与えるのは、小鳥のため?
それとも、僕自身のためなのか…迷いながら、僕は小鳥を放つ…… "
そんな出来もしない空想をしながら、意気地のない僕は砂の上に篭を置いた。
僕は本当に途方に暮れていた。この果てしない砂漠の中で、一人…
僕は僕自身の歩みにも、そして、愛することにさえ、疲れてしまったんだ…