遥かな懐かしさ3
狭間から脱出しても、それは追いかけてくる。
崖の上に降り立ち、ロイに抱えられたまま、その光景を見ていた。
空からぽたりぽたりと絶望が滴のように降り注ぐ。
とめどない。
終わりがないような大量のもの。
「神であった俺が、何千何万年の年月吸収し続けた絶望だ。半端な量じゃない」
どこか思案げに呟くと、ロイが剣をかざす。
ぶわっと白い光が剣先から溢れて、薙ぐと地上の絶望を四散する。
僅かに地表が見えたが、すぐに黒に覆われて見えなくなる。
「どうなるの?」
地上を覆い尽くす暗黒に禍々しいものを感じ、鳥肌が立つ。
「…暴走した絶望が、全てを支配する…なんてことはさせない」
「えっ?」
剣をしまい、ロイは私を間近で見つめた。
「必ず俺が全てを浄化させる」
柔らかい表情でロイが視線を移すので、つられて周りを見渡す。
いつの間にか、既に私たちを囲うように暗黒が迫ってきていた。
ロイが私を下ろす。
しがみつこうとする私の手を握り、そして離した。
「ロイ?」
私にロイが手をかざした。
ぽうっと金色の光に包まれて、暗黒は私を避けるようにして私以外を浸食する。
「ルリ、聞いてほしい」
そう言ったそばから、彼の足に暗黒がまとわりつく。
私が悲鳴をあげても、ものともぜず、ロイはただ私を見つめている。
「俺は希望の神の力を保持した人間だ。だから、絶望を必ず浄化できる。だけど、この量を全て浄化するのには時間がかかる」
「…ロイ!」
脛の辺りまで暗黒に包まれて、ロイは困ったような顔をした。
「ごめん、ルリ……俺はこの身を絶望に同化させて、何年か何十年かかけて浄化するよ」
謝られた意味が分かってきて、私は心が握りつぶされるような痛みを感じた。
ロイが口をつぐみ、苦しげな表情を見せた。
「ルリ、もう少し待っていてくれる?…こ、今生では無理かもしれないけれど、次の生では…君をたくさん愛するから…きっと俺はわかるから。君を懐かしいと感じるから…」
まだ自由になる手をロイは、私の額に向ける。
ふわり、と微かな目眩がした。
早すぎる。
私から、来世では今までの記憶を無くすように魔法をかけるなんて。
「ロイ…私がこれ以上待つと思う?」
え?!という表情で私を見る彼に、私は不思議と微笑むことができた。
涙は出ない。
私は別れなんて、これっぽっちも認めないから。
「さっき言ったこと忘れたの?」
胸の辺りまで暗黒に侵されたロイの首に腕を回した。
驚く彼の顔をイタズラっぽく至近距離で覗き込んだ。
「死んでも一緒だって、自分で言ったくせに」
ロイが目を閉じた。
「……そうだった」
それから大事そうに私を両腕で包み、笑った。
「おいで、愛しい俺の奥さん。」




