遥かな懐かしさ2
重苦しかった狭間の空気が変わる。
岩が散り散りと漂う果てない空間に、どこからともなく光が射し込む。
ロイは自分の完全な力を確かめるように、手のひらをじっと見ていた。
「…キスはいらなかったと思う」
拗ねたように私をちらっと見てから、ぼそっと呟いた。
「なんだか、私には彼がとても淋しそうに見えたわ」
「だからって…」
「貴方の一部なら、全部好きだから…」
「………………」
視線を私に移し、ロイはしばらく私を複雑に見ていた。
それから、ふっと笑った。
どこか諦めたような表情だった。
手を握ろうと、私は彼に近づこうとした。
その時だった。
ふいに足を引っ張られる感覚がした。
今にも触れ合いそうだったロイの手が遠ざかる。
「ルリ!」
ロイが、名を呼んだと同時に、足を引っ張るものに力を放ち切り裂いた。
勢いで地に倒れながら足元を見やれば、得体の知れない黒くわだかまったものがそこにある。
じわり
じわり
狭間の地や空や何もない空間から、湧き出すように黒い物が溢れでてくる。
「何なの?!」
「…神格を取り去った絶望だ」
苦くロイが呟いた。
片手をそれにかざし、ロイが目を閉じる。
すうっと身体全体が淡く白く輝きながら、ロイは再び目を開けて、かざした手から光を放った。
空間が光に包まれて、まばゆい明るさに私は目を閉じた。
しばらくして、ロイの舌打ちが聞こえた。
「ダメか…浄化が間に合わない」
彼に手を引っ張られて、駆け出す。
液体が押し寄せるように、周りにじわりじわりと黒い絶望の具現化したものが湧いて、私たちを浸食しようとする。
ロイが私を抱えて、狭間を脱出する。
「浄化、できないの?!」
空から降り注ぐような黒い物体をロイの背中越しに見て、私は思わず彼の首にしがみついた。
こんな時なのに、彼の体温に安心して、怖くはない。
「ゼイノスを取り込んだら、絶望もそのまま俺が吸収して抑え込めると思ったんだが…予想より増殖していたみたいだ」
焦りは感じるが、ロイの声音もどこか飄々としている。
私もロイも転生を重ねて、何が一番かを知っているから。
「とりあえず逃げる。まあ、大丈夫だ。どうなってもルリと一緒だから。例え死んでも」
さらりと何でもないようにロイが言った。
不思議だね。
私も貴方といれば、何も怖くないな。




