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始まりの地へ4


鬱蒼とした木々で、丘は以前のような草原ではなく広大な森を形成していた。


「ここからは歩いて行く」


人になったロイは、神のように簡単に狭間に行けるわけではない、と説明した。


狭間近くまで歩いて、そこから翔ぶ。


「これで終わりなのよね?」


またしても、不安な気持ちが押し寄せ、私はロイに縋りたくて、手を伸ばした。


その手をとって、彼は近づき、私を抱き締める。


「終わらせる。例え終わりじゃなくても、いつも一緒にいる。約束する」


触れたところから感じる、心拍、呼吸音。

温もりや彼の匂いを感じて、安心する。


腕の中から、見上げた。


山のようになった森。

木々が守るように覆いつくす始まりの場所。


私とロイが踏み込んだその時に、違う始まりが始まればいいのに。


分け入っても、緑。


ロイが片手で私の手を引き、もう片方の手に剣を持ち、草木を薙ぎ払いながら進む。


人が入らないのか、道なんてない。

樹の根に足を取られないように歩く。

空さえ見えないほどに繁る樹木。


「ルリ、これが終わったらどうする?」


岩を越えるのに、私の手を引っ張りあげながらロイが聞く。


「考えてないわ」


私には、彼と共にあることが一番だったから、それ以上なんてその先の未来なんて、及びもつかない。


なんだか贅沢な気がして。


「ルリ、もっと欲張っていいんだよ」


笑って私を見ながら、彼は言った。


「幸せを求めていいんだよ。怖いことじゃない」

「うん」

「欲張ってごらん。それが俺の力になる」

「え?」

「幸せを欲張ることは、希望。俺の司る力だから」

「そうか。そうだね。分かったわ」

「俺はこれからのこと、いろいろ考えてる」


私を振り返り、イタズラっぽい目をした彼は口許だけで笑う。


ロイの考えていることが想像できて、私は俯いて少しだけ笑いを堪えた。


「まず君とちゃんと夫婦になる。それで…」

「一人でいい」

「え?」


喪った痛みがちくりと胸を刺す。


「一人でいいの、子ども。…リンファの時に授かったあの子が、還ってくるなら、一人で充分…」


無意識にお腹に手をやる。

ロイは、それを静かに見て、小さくわかったと言った。


息を切らす私が、呼吸を整えるのを彼はしばらく黙って待った。


「…………また二人で商人をしてもいい。護衛でもいいし、どこか静かな所で家を建てて暮らしたい。子どもと君と俺で…ずっと歳を重ねて、天寿を全うするまで…」

「それは…贅沢ね。すごく幸せそう」


泣きそうになって、声がうわずってしまった。


「今度こそ叶う」


私の手を繋いだまま、ロイは前を見ていた。


崖の上に出た。

草はらだった面影は、樹木の浸食でまるでない。


私たちがかつて過ごした場所に、今たどり着いた。

眼下には、樹海。


数百年前、私の村があった場所は今はない。


懐かしさよりも寂寥感が強い。

でも、それでもいい。


私の隣に彼がいるから。

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