始まりの地へ3
私は顔を上げて、彼を見つめたまま、しばらく何も言えなかった。 お互いがお互いを忘れて、次の転生ではもう…
「………人は、好きな人を忘れていても、転生するたびに出会うものだ。縁って言ったらわかりやすいかな?」
「えにし?」
「例えば、そう…ナディアは前世でテレサの母だった」
「ええ!?」
驚く私の腕に唇を這わせて、ロイは言った。
「だから、俺たちは次も出逢える。ああ、また夫婦がいいな。あ、でも、とにかく今生で添い遂げて幸せになるのが先だけど」
忘れることは淋しい。
でも、ちゃんと逢えるなら。
「ロイ…見つけてね」
「ああ、勿論」
彼の胸にすがると、両手で包まれた。
「ロイ、いつもいてくれる?」
「君が逃げない限り。いや、追いかけても側にいるし、今までもいた。肉体はそばにいなくても、心はずっと、いつも君のそばにいたよ」
神格を棄ててまで、私の側にいることを選んでくれたんだ。
私はすごく貪欲で、寂しがりや。
一人で生きて行こうと決めていたルリは、すっかり消えてしまった。
「ロイ」
手を伸ばして、彼の頬に触れてから唇にキスをした。
再び瞼を開けた私を見つめ、彼は唇を指でなぞった。
それから身体を起こして、私を見下ろした。
「ルリ、記憶が無くても、俺を覚えていて欲しい。来世で懐かしいと思う人に会ったら、それは俺だから…」
そう言って、私を強く抱き締めた。
小さくおざなりに、大丈夫かと聞いて私の頷きを見もせずに、再び肌に指を這わせた。
「…あっ…」
自らの熱を、身体だけでなく、私の魂までに刻み込むように。
「俺を…忘れさせない」
名前や顔や前世の記憶を知らなくていい。
でも、わかっていてほしい。
この熱を。
想いを。
愛されていたという残り香を。
強い快感と同時に痛みを感じて、甘い悲鳴を上げた。
でも、止めなかった。
私も深く刻まれていたかった。
痛いぐらいが、ちょうどいい。
私は貪欲だから…
魂に強く刻み込んでいて欲しい。
耳元で彼の乱れた呼吸を感じて、私はようやく安心できる。
彼と生きていることを、実感して。
**************
ネレの丘。
ティーナが初めてゼイノスと出会った場所。
「あそこに俺がいたのは、いつも住まう狭間があったからだ」
馬の前に私は座り、ロイの声を頭の後ろ辺りで聞いている。
「…それって、出会う前から私のこと、もしかしてずっと見てたの?」
「……見てた」
ばつが悪そうな声に、思わず笑みが零れた。
そうしたら、私の肩を引き寄せて、うなじに彼はキスをした。
「…あの場所は、神には住み心地の良い狭間の真下だったからね」
「そこに、ゼノがいるの?」
「いる。力を感じる」
元は自分自身だ。
わかるのだろう。
「あそこは落ち着くから」
あのまま…
私達が出会わなければ、私はそれなりに幸せな人生を送っただろう。
だけど、今はもう後悔はない。
「…ロイ。逢えて良かったね、私達」
振り向いて彼を見て、ちゃんと言った。
「ああ、そうだね。本当に良かった」
ロイは驚いて、それから嬉しそうに笑った。
この物語も、もうすぐ終わりが近付いてきました。




