貴方の元へ3
………え?
「失敗した?神なのに?」
「だって、人間になるなんて初めての経験だったんだ。他の神々は天に昇って、俺一人で実現するのは、なかなか難しかったんだよ。ほら、参考になる神いないし…中には人間になった神もいたことはあったけれど、転生していてやり方忘れていたしね」
ロイは恥ずかしいのか、言い訳じみた理由を述べる。
まあ、話の内容は事実なのだろうが。
「つまりだ、俺は人間になるために自分の神格を引き剥がそうとした。でも神格と一緒に絶望の神が俺から剥がれた」
「どういうことですか?」
人々が控えめに聞いた。
「俺は希望を与える神であると同時に人の絶望を軽くするために、彼らの絶望を少しづつ吸収していた。膨大な年月、膨大になった絶望を」
少しづつでも、永遠を生きる神が蓄えた絶望は、もの凄い量だったはずだ。
私は食事をする手を止めて聞いていた。
隣に寄って来て話す彼は、今までのロイよりも更に大人びた印象を与える。
「俺は人間になることには成功した。その代わり分身として、絶望を司る神格が現れてしまった」
私を見つめたロイが、
「すまない…」
と言った。
「…俺の分身である絶望の神は、神の力を半分しか持たない。所詮は分身。あとの半分は俺の魂が所有していた…力を解放できるようになったのは今生だったけれど」
自分の手の平を見つめて彼は言った。
「絶望の神は、完全な力を欲した。そのために君の絶望が必要だった。時に深い愛情は深い絶望を生むから。それが彼に向けられた感情なら尚更。強い絶望の力となるから」
「…そうだったの…」
死んでいった人たちは、そんな理由で殺されたのか。理不尽さに怒りが込み上げる。
「…俺のせいで、ルリを何度も辛い目に合わせてしまった。…すまない。関係の無い者たちまで巻き込んでしまった」
唇を噛み締めてる元神に私はそっと言った。
「でも…私を護ろうとしてくれたでしょう?」
「そうだ。だが、君がティーナの時に酷い目に合っていた頃、既に俺は転生の輪の流れにいた。何もできなかった。俺がレイリイだった時は普通の人間と変わらず無力に近かった。」
「でも、幸せをくれた。」
顔を上げたロイは、僅かに泣きそうな顔をしたが、それからゆっくりと微笑んだ。
「ああ、俺も君に幸せをもらった…レイリイは死ぬ間際、笑っていただろ?」
「うん。」
「あの時、気づいたんだ。自分が何者か。来世では必ず力を覚醒させ、君を探しだして、今度こそ護ると…そう誓って笑ったんだ。」
「そう…そうだったの」
私は顔を覆った。
泣いてばかりだ。
ずっとずっと一人だと思っていて、涙なんか忘れていたはずなのに。
「君に今生で逢えて良かった。今度はずっと君を幸せにする」
「…うん」
それまで黙って聞いていた他の人々が、疑問を口にした。
「あ、あの…ロイ」
「敬語はいいよ。何?」
「そもそもなぜ、人になろうとしたんだ?」
「…ああ、そこからだね…」
ロイは頬を指で掻いた。
原因が私情で、言いにくいのは明らかだ。
「ご、ごめんなさい…」
私は謝るしかできない。
「…すまない。あー、ごめんなさい」
ロイも謝った。
そして、経緯を説明すると、彼らは呆れた顔をした。
「か、神だって淋しいんだよ。人間の女性と恋愛してもいいだろ?ついでに、添い遂げたいから人になりたがっただけだよ…」
私はいろいろと恥ずかしくて、顔を俯けた。




