少年にお買い上げ2
樽に座らされると、少年を見下ろす形になった。
Γ思いきったことをしたね。……痛いでしょ?」
少年が手を伸ばして、私の頬の傷に触れようとする。私は思わず身を引いたが、構わず彼は傷をなぞった。痛むかと思って、目を瞑った。
Γ……あ、れ?」
痛みはない。それどころか…
手を放した少年が、指についた私の血を味見するように舐めたのは……この際見なかったことにする。
Γもう治ってるよ。」
確かに手で確認したが、傷は最初から無かったように消えていた。血だけがこびりついて残っているだけ。
驚いている私に、悪戯っぽく笑い、今度は手の枷に触れた。
バキッ!と音がした。
力を入れたようには見えなかった。今度は足。
彼が手を触れた所から、面白いように枷がバキバキと外れた。
Γよし、すっきりしたね。」
私を見上げて、少年は微笑んだ。
Γ……あ、あなた…」
Γロイだよ。」
Γ…………」
Γよろしく。」
目を見張る私の反応を窺いながら、ロイは名乗った。
Γ……………」
間違いない。これは魔法だ。今生では初めて見た。世界でも僅かな人間しか使えない力。神が与える力。神に愛された者だけに使える力。
……魔法
Γ内緒だからね、僕の力。」
再び通りに出て、私達は歩いている。ロイは私の手を引いている。私が逃げると思っているのだろうか。……って、いきなり魔法見せて内緒だって、私を信じてるのか、どっちなんだろう?
Γ……わかったわ。」
Γで、名前は?」
ロイに興味が湧いた私は、正直に答えた。
Γルリ。」
Γルリ。綺麗な名前。……ふうん、ルリか。」
弾んだ声を出すロイの前髪が風で靡くのを見ながら、私は聞いた。
Γロイは、いくつ?」
Γあ、名前呼んだ!15だよ。」
……2歳下か。
Γロイ、私の方が歳上。呼び捨てやめてよね。」
Γ堅苦しいなあ、名前で呼ぶ方が親近感湧くのに。……ああ、それに…」
にやっとロイは私を見た。
Γ僕は君を買ったんだ。どう呼ぼうが僕の勝手だろ。それに僕が君に何しようが……僕の自由のはずだよね?」
そう言うと、気安く私の肩を撫でるように触ってきた。
こ、このガキ!
ベチッ、とその手を叩いてやると、イテッ!とロイが悲しげに悲鳴を上げた。