絶望の始まり2
ロイに抱かれたまま、私は燃える街から目が離せなかった。
よく見ると、街の端から中心に渦を巻くように炎が上がっている。
突然燃え広がったような、前触れの無い火事。
「…ねえ、ルリ」
すっとロイが立ち上がった。
「……え?」
「教えて欲しいんだけどさ、河が街を通っていたよね?ここから見えないけど、どの辺りだっけ?」
私は、彼の落ち着いた声に意識を戻し、なんとか指で河の辺りを指し示した。
「…ああ、わかった。それと…水道管は地下を通ってるから…あとは雨を」
ロイが空を見上げた。
「良かった…曇ってるから、降らせやすい」
言った瞬間、雨が降りだした。
それも、ポツンと降ったと思ったら、あっという間に豪雨になった。
目を開けるのも難しいぐらいの大雨に、滴を拭きながら、彼を見上げた。
叩きつける雨をものともせず、両手を河の辺りに掲げる。
ゆっくりと水が生き物のように河の岸を越え、街へと波を立てながら流れ込む。
シュウ…
と音を立てて火が消えていく。
地下の水道管からも水が溢れ、街をくまなく流れ火を消していった。
私は驚き過ぎて、黙って見ていた。
火を消し去るのに、わずか20分ほどだろうか。
雨がだんだんと弱くなり、細々と降る程度になった。
火が全て鎮火したのを確認して、ロイは河の水を操るのを止めた。
街は水浸しだが、歩けないほどではなさそうだ。
街を見ていたロイが、私を見下ろした。
「…大丈夫だよ。君が絶望することは無いから」
「……」
ロイが微笑んだ。
「…魔法、強くなったって言っただろ?」
「…ロ、イ」
呆然としながら、私は言った。
「…溺れた人がいたらどうするのよ」
全身ずぶ濡れの私をちらちら見て、ロイが小声で呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
「はぁ、色っぽい、ルリ…めっちゃ身体のラインが、み、見え…」
「…ロイ、なんか変わったね…ガッカリ…」
懐かしいな、昔のロイ。
「え?ガッカリ?」
「何でもない。ありがとう、ロイ。助けてくれて」
私はそう言って立ち上がろうとした。
彼が私に手を貸そうとした。
その時…
ふいにロイが視界から消えた。
「ロイっ!!
跳ばされた彼は、声もなく遠くの樹に叩きつけられた。
異質な光景にぞくっとした。
『…今生では力を回復させたか…』
いつの間にか、私の目の前に佇んだゼノが言った。
「…ゼ、ノ…」
ゆっくり近付く男を、見上げる。
身体の震えを必死で抑える。
『今度こそ、迎えに来た。』
優しげな微笑みに、間違えそうになる。
「街を、燃やしたのは、あなたね?」
震える声で問う私に、
『お前に早く来て欲しいから』
と平然と言う。
『お前が親しんだ街、仲間、愛した者たち、全てを消し去ろう。…だから、早く絶望に魂を染めろ」
「…い、や…」




