解放されて
街路樹の深い赤に色付く葉がパサリと一枚落ちた。
冷々とした空気に、私は上掛けを襟元まで引き上げた。
「いらっしゃい!」
屋台に広げた新鮮な野菜。果物。お菓子や日用品も少し売っている。
いつも来てくれるなじみの女性。 お小遣いを握ってやって来る子どもたち。
私の顔を見にやって来る酔狂な男。
まあ、品物を買ってくれるなら無下にはしない。
だいぶ客もつくようになった。
「これと、これ…」
「あ、よかったらこれも買われたら値引きしますよ」
「ふふっ、わかったわ。お願いね」
前世で商売について学んで良かった。
生きるために、とても役立つ。
この二年間でだいぶお金も貯められた。
それを元手にパン屋を開きたい。料理だって、それなりに自信がある。
毎日楽しくしている。
このまま一人で逞しく生きてやる。
誰の力にも頼らず。
誰とも関係を築かず、築くとしたら客と店主ぐらいでいい。
今、私は自由。
秋の木々の葉の落ち行く淋しさ
胸の中に似た想い
封じて生きて
涙は忘れた
私はにこやかに客と話していた。
笑える。
心からではなくとも。
大丈夫
朝早く起きて、仕入れ作業。 前日に頼んでいた品物が屋台に届くのを待ちながら、開店準備。
お金の計算。
品物のリストを見ながら、次に仕入れる物を検討する。
どんな物がよく売れるか、何が必要かを考える。
売れ残った品物は、傷みやすいものから値引きして素早く売る。
期限間近の菓子類は、袋詰めの物は小分けにして子どもにおまけとして渡す。
今日は暦では、仕事休みの日なので客の入りがいい。
「あんた、一人で店やってるの?」
「はい。」
「若いのに、えらいね。」
中年の女性がそう言いながら、野菜を買って行く。
「ありがとうございます。また入らしてくださいね。」
愛想よく言って見送る。
「イリア。」
背の高い男が声を掛けてきたのは、人の入りが少なくなる夕方の終わり。
店を閉める直前。
私の偽名を馴れ馴れしく呼ぶ男に、内心舌打ちする。
「店は終わったよ。」
「わかってるって。」
私のどこがいいのか、酔狂な男の一人ハミルがまたもやって来た。
「なあ、送ってくよ」
「近いんで結構です」
「あんたかなり美人なんだし、女一人で夜道を帰るのは危険だって」
あんたが一番危険だ。
「なんの関係もないあなたに、そこまでしてもらう義理はない」
ちっ、とあからさまに舌打ちをしたハミルが私を睨む。
「家に男でもいるのか?」
ふっ、と私は笑った。
「さあ…どうかしら?」
私の態度に、馬鹿にされたと思ったのか、ハミルは拳を握っている。
「イリア、男がいるのか?!」
「…………」
私は話す気にもなれなくて、無視して片付けを続けた。
荷物を肩に背負い、突っ立ったままの彼に言った。
「寒いから、早く家にお帰り。おやすみ。」
返事も聞かずに、ぱっと踵を返し早足で家路を急いだ。
すぐ近くに小さな家を借りている。
女一人は、これだから大変。
もっと顔が不細工なら、苦労も少なかったかもしれない。
暗いので、振り返ってもよく見えないが、ハミルは追って来てはいないようだ。
やれやれ、諦めたか。
そう思ったら、家の前に先回りした彼がいて、ギョッとした。
「よお、遅かったな。」
腕組みをして、にっと笑いハミルが私に近付こうとする。
私は肩の荷をストンと下ろした。
既に手にした弓を彼に向けた。
バシュ!
バシュ!
家の戸口の側にいた彼の耳横に一本。
彼の足の間に一本矢を射かけた。




