リンファの物語9
転生前の記憶を、忘れることができない魔法。
地獄のような苦しみを与える魔法。
忘れたいのに忘れられない
愛したくないのに、愛してしまう
幸せだった記憶が、愛しくて、覚えていたくて
幸せであればあるだけ、苦しくて
辛くて、悲しくて、憎くて
いっそ、狂ってしまったら楽だろうに
こんな地獄
繰り返される地獄
もう転生などしなければ。
絶望の神となったゼノに、いっそ魂を委ねられたら、どんなに楽か。
けれど、それすら私自身が許さない。
憎しみを棄てられない。
同時に、私の魂にくすぶる彼への愛が、諦めない。
止まらない涙で霞む目で、私はロイを見た。
一緒に涙を流してくれる、今生の私が愛した人。
そっと、頬に手をあてがう。
大事に大事に
「ルリ…」
「…ごめんね、ロイ。ごめんね…」
頬を撫でて、私は何度も謝るしかない。
…あなたを愛してごめんね…
「…レイリイは、凄く喜んでくれたわ…私が身籠って…」
泣きすぎて、身体から力が抜け、ロイに身を預けたまま、私は呟くように続きを話した。
もう話さなくていい、と言う彼に、ゆるゆると頭を振って、私は心から血を流すように話した。
「私は、彼の喜ぶ顔が嬉しくて…幸せだったけど、子どもができて更に幸せになれるんだと嬉しくて、怖いぐらいに。」
ロイが、ゆっくりと髪を撫でる。
彼の胸に顔を当て、私はまた涙をこぼしながら言った。
「突然だったの……ゼノが再び現れた。まさか次の生まで現れるとは、思ってなかった。彼は言ったの。」
『絶望への準備は整ったか?愛しい魂…』
「…絶望の神になったゼノは、私の魂を手に入れるために、私が絶望することを欲していた。絶望した魂だけが、輪廻から外れ、彼のものになるのだと。」
唇から血が出るほどに噛み締める。
「ゼノは待っていたの。私が誰かを愛して、愛されて、最も幸せな時を迎えるのを…」
「それで…か。」
ロイが理解して呟く。
「人は最も幸せな時、それが壊された時、絶望に堕ちる…」
赤い炎
赤い血だまり
憎しみの赤
繰り返された赤
心に染み付く赤
「レイリイは、私を庇って神と闘おうとした。でも、敵わなかった。私の目の前で殺された。きっと、なぜかもわからなかったはず…それでも、私を守ろうとして…」
思い出す。
レイリイは、最期に血だまりの中で微笑んだ。
私を安心させようと、私を見つめて、最期まで優しかった。
「私は、精一杯抗おうと、夫の剣でゼノの身体を突き刺した。でもダメだった。彼は傷ついても死なない。所詮、人では敵わない。私は、また何もできず…命を奪われただけだった…」
「…ルリ…」
ロイに抱き締められたまま、私は笑った。
「ふふ」
泣きながら、狂ったように…
「ふ、ふふ…わかったでしょう?私、淫乱な女だわ…転生する度に、違う男を愛して…前世の男たちを覚えているのに…、愛しているのに…また違う男を愛して、気を移して…最低なのよ。」
低く喉を鳴らして、自らを嘲る。
なんて愚かな私…。
懲りない私。
気を移して、愛を求めて愛した男を殺させてしまう馬鹿な私!
両手で顔を覆い、笑い続けた。




