リンファの物語7
ある日、リンファは夫に誘われて街に二人で買い物に出た。
自宅のある街の隣の街。
「何か買ってやるよ。」
レイリイは彼女の手を引いて、街を歩いた。
二人きりで街中を歩くのは、初めてだった。
結婚して3年。
忙しかったが、充実していた。
青い石で彩られたネックレスを贈られた。
「ありがとう、あなた。」
微笑んで見上げた時だった。
ふいにこめかみに痛みを感じた。
驚いて周りを見たら、一人の少年がリンファを睨み付けていた。
その手に石が握られているのを見て、痛みを感じたこめかみに触った。
触った手に血がついた。
「リンファ!お前、何をする!」
レイリイがもの凄い剣幕で少年に怒鳴った。
庇うようにリンファを抱き寄せた。
「リンファ!大丈夫か?!」
傷を確かめるレイリイの横から、少年が叫んだ。
「お前、王族だろ!俺たちの税金で贅沢しやがって、金返せ!」
はっとした。
「リンファは商人である俺の妻だ。もう王族ではない。」
レイリイが睨んで言った。
「父さんが言ってた!あんたは金の使いすぎで、商人に売られたんだろ!」
「ちがっ!」
「いいの、あなた。」
リンファはこめかみを押さえていた手を下ろし、
少年に近付いた。
騒ぎに気づいた人たちが集まって来た。
「幼かったとはいえ、あなたたちの大事な税金でのうのうと暮らしていたのは本当です。無知で愚かで…悔やんでも悔やみきれません。申し訳ありません。」
深々と頭を下げた。
少年が、ひるみながらも言った。
「な、何だよ!金持ちの家に嫁いで、苦労なんてしたことない癖に!ふざけんな!」
「土下座しろ!」
ヤジがとんだ。
「……。」
すっとリンファは座り込んだ。
ゆっくりと丁寧に地面に頭を付けた。
優雅に見えるほどに、美しい土下座をした。
「……」
皆、黙って見ていた。
少年は口を開こうとしたが、何も言えないでいた。
「ごめんなさい…。」
驚いて見ていたレイリイが、やがて膝を折った。
「あ、あなた…。」
「妻が土下座するなら、俺もする。夫婦だからな。」
「レ…レイリイ様…」
レイリイ個人には、彼らは恨みはないのだ。
さすがに少年たちが、たじろぐ。
「ど、どうか立ち上がって、やめてください!」
人々の声に、レイリイが見渡して言った。
「気が済まないようなら、今持っている有り金を出す。…それでもダメなら…」
「あ、あなた?!」
レイリイが服を脱ぎ出した。
「身ぐるみ剥いで渡す。」
「も、もういいよ!」
見ていられない、とばかりに少年が走ってどこかへ行ってしまった。
見ていた人々も、ばつが悪そうに去って行く。
「………………」
「………………」
レイリイが、手を添えて妻を立たせた。
ぷっ、とリンファは吹き出した。
「笑うなよ。」
そう言った彼も笑っていた。
リンファのこめかみの傷に唇をつけ、血を舐め、彼は言った。
「俺は何度か今まで、土下座を見たことはあったが…あんなに綺麗な土下座は、初めて見た。」
感心したように言った。
「私も…自分で身ぐるみ剥ぐ人は、初めて見たわ。」
ははっと笑い合った。
「リンファは…とても良い女だよ。」
顔を逸らして、レイリイはぼそりと言った。
リンファは、贈ってもらったネックレスを手に包んだ。
夫の手を握って歩く。
「リンファ、傷は…」
「平気。それよりあなた、ご飯食べに行きましょう。お腹空いたわ。」
「ああ、そうだな…せっかくのデートだもんな…」
布で血を拭って、傷を髪で隠してやって、レイリイは彼女の手を引いた。
「よし、リンファ。俺のおすすめの店に行こう!旨いぞ!」
「ええ。」
ネックレスを首にかけて、リンファは笑った。




