ティーナの物語18
「ルリ……ルリ。」
呼ばれて、はっと我に返った。
ロイが顔を曇らせ、私を覗き込んでいた。
「あ……」
そうか、私…
今は、ルリだった。
遠い記憶を呼び起こすと、自分が誰だったかわからなくなる。
私は、顔を覆った。
だんだんと狂ってきているような気がした。
まともでいるには、辛い記憶。
いつまで自分を保てるだろう。
「ルリ…」
「う…」
「ルリ、おいで。」
ロイが優しく呼ぶ。私は、どんな顔をしていいのかわからない。
ふわっと身体が浮いた。
そんな私を抱え、ロイは歩いた。
「………話してくれて、ありがとう。」
「…………」
「………辛かっただろ。」
「……………」
「ずっと一人で抱え込んで…」
ロイが、抱えた私の目を見つめた。
真っ直ぐで揺らがない目をしていた。
ああ、ロイは微塵も疑っていない。
そう思った。
「もう夜遅いから、眠ろう。」
当たり前のように、自分の寝床がある馬車に私を運んだ。
一つしかない寝具に私を寝かし、ロイは隣の床に寝そべり、そっと包むように抱き締めてくれた。
労るように背中を撫で、彼はぽつりと言った。
「君は、ゼイノスをまだ好きなんだね。ひどい目にあっても、それでも…」
「…え?」
「君が、なぜ絶望しないか。僕には、なんとなく分かる気がする。」
そっと優しく私の額にキスして、ロイは言った。
「君は、彼がいるから絶望しない。とても大好きだったから。今は憎んでても、大好きだった記憶は無くならないから…」
「神は…嘘をつかないの。だから、私の家族を殺したのも真実だけど…私を愛してくれたのも…真実、のはず…」
涙がみるみる溢れた。
「ルリ。」
「私、おかしい!彼は酷いことをしたのに!憎んで、いつか殺したいと本気で思うのに!」
「それでも、好きなんだね…」
悲しそうにロイが言った。
「わ、私…もうどうしていいか!」
「ルリは…きっと彼が言うように、とても綺麗な魂を持っているんだね。愛することをやめられないような、情の深い人なんだね。」
ロイが私の頭を抱いて言った。
「僕が、その人になれたらいいのに。」
私は黙って、ロイの背中に手を回した。
そして、彼の胸に顔を付けた。
「ロイ…」
「何?」
「明日、また聞いてくれる?私の昔の話…」
「うん。君のこと、たくさん知りたい。」
そう言って、ロイは頬にもキスしてくれた。
ありがとう…
こんな私を、ロイは好きでいてくれる。
嬉しくて、とても怖かった。
ロイの優しい鼓動。
今だけは、私を癒していて欲しい。




