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狂愛の神を憎みし物語  作者: ゆいみら


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ティーナの物語11

ある朝、父親が言った。


「ティーナ、今日は私が行こうか?」

「え?」


小屋から羊を連れ出そうとしていたティーナが立ち止まる。


「毎日大変だろう?たまには…」

「ううん、大丈夫。私が行きたいから。」


内心どぎまぎしながら、ティーナは断った。


「そうか?無理するな、私が…」


まだ若い娘だ。時には遊びたい時もあるだろうと父は思ったのだろう。

そんな父の袖を、母が引っ張った。


「あなた…。」

「なんだ?」


きょとんとする父を止めて、母がティーナに微笑んだ。


「いってらっしゃい。あまり遅くならないでね。」

「はい、行ってきます!」


嬉しそうに言い、遠ざかる娘の背中を見送り、母は父を見た。


「……ほっといてあげて。」

「なぜだ?私は何も…」

「鈍いわね。あの子の顔を見て気づかないの?」


首を傾げる父に、あきれた顔をして母は言った。


「好きな人がいるのよ。多分、逢いに行ってるんだわ。」

「ええ?!」

「そっとしておきましょう。」


末の子をあやして、母は言った。


****************


薄墨色の空と緑の大地の間で、その人は遠くを見ていた。

何か考え込んでいるようだった。


それでも、気配に素早く気づくと振り返り、いつものようにティーナを呼んだ。


「おいで。」


座っている彼の元へ行き、ティーナが座ろうとした途端、腰に手を回された。

ぎゅっと抱き締められた。


「ゼノ?」


目を閉じて、突っ伏すように彼女の膝に頭を置いて、ゼノは言った。


「…………私は、人になりたい。」


さすがに驚き、ティーナはゼノの表情を窺った。

彼は顔をうつ伏せ、ティーナの腰に回した手に力を込め、強く抱き締める。


「ゼ、ゼノ?!何を言って…」

「…自らの神格を…取り去る。そして、輪廻の輪の中に…」

「…………。」


ティーナは、理解した。

ゼノは、苦しんでいた。


私と会ったばかりに。


「ティーナ…」


見上げてきた彼は、神や人間というよりも、一人の男だった。


余裕のない、切なく悲しい表情だった。


恋をするということが、どれほどその人を変えてしまうのか…。

心優しい、希望の神であるゼノ。彼も心在る限り、例外ではない。


胸が痛む。


神に愛されることが、畏れ多いとか、光栄とか、喜ばしいとか、そんなことよりも、ティーナの心を占めるのは苦しみだった。


いけない


彼にこんなこと言わせてはダメだ。


こんな顔させてはダメだ。


こんな苦しみを与えてはダメだ。

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