戸惑い
リゼという街に着いた。5日ほど滞在するらしく、公園の一画に駐留する許可を得た。ロッド達商人と、商品を運ぶ荷車を引く者、護衛が二人、商談の為に出掛けて行った。
私は今日は休みをもらっている。ナディアと買い物に行くのだ。鞄に財布を入れて肩から提げて、長い髪はそのままに肩を隠す。
Γルリ、あの…」
この場を護るために残っていたロイが、躊躇いがちに声を掛けてきた。
Γナディア、お待たせ。行こう。」
Γ…ええ。」
私は聞こえなかったフリをした。
Γルリ!」
彼の追いかけるような声に、胸がチクリと痛んだ。ナディアは私とロイを見たが、何も言わなかった。
Γ服借りっぱなしでごめんね。」
店で、給金で自分の服を数着と靴を買い、私はナディアに言った。
Γもらってくれていいのに。」
ナディアは帽子を買った。
初めてもらった給金は、何着かの服と靴、ロイへの返金で減ってしまったが、賄い付きの仕事なので困りはしない。
Γ何か食べて帰る?」
昼食を摂ってから出掛けたけれど、まだ陽は明るい。もう少し街を楽しんでもいい。
Γううん、皆心配するといけないから。帰ろう、ルリ。」
微笑んで言うナディアだが、どことなく元気がない。
Γわかった。帰ろう。」
買った物を半分彼女が持ってくれた。
Γ………ごめんね、ナディア。」
Γえ?」
ゆっくりと歩きながら、私はぽつりと言った。
Γ私が来た最初の夜、あんなの見せて。」
しばらく過ごして気付いた。
私がロイと一緒にいる時の、ナディアの表情。ロイと話す時の、ナディアの表情。
Γナディア、ロイが好きなんでしょう?」
ぱっと赤くなる彼女を見て、図星だと確信する。きっと、私のせいで傷ついていたはず。
Γ私、ロイのこと何とも思ってないから…気にしないでね。」
チクチク痛む胸には、気付かないフリをする。
Γ本当に?」
疑わしげなナディアに、明るく笑ってみせる。
Γええ。」
そうよ、好きになるわけがない。好きになってはいけないのだから。
Γ……ロイは違う。」
視線を落としてナディアは呟く。
Γあなたと会う前のロイは、感情を表に出さなかったし、あんなに話したり笑う人じゃなかった。私にも、事務的な感じでしか接してくれなかった。」
Γ……………」
Γロイが、ルリのことであんなに幸せそうに笑うのを初めて見たわ。人に関心を示す人じゃなかったのに…ね…ルリ、気付いてる?」
涙を溜めたナディアが、私を見つめた。その瞳は悔しそうで、明らかに嫉妬の色を浮かべていた。
Γ今のロイ、もうあなたしか見てない。ずっと目で追ってる。」




