憎しみは糧2
外で誰かと話しているロイの声がした。
着替えて身綺麗にしてから、私は様子を見るために外へ出てみた。
Γ給料前借り、お願い!頼むよ、ロッド。」
ロイが下げた頭の上で、両手を擦り合わせて頼み込んでいる。
Γお前は散財する子じゃないはすだ。給与の支払い直後で前借りとは、何が目的だ?」
Γえっとお…」
Γロイ。」
ぱっと見たところ、ロイの父親かと思ったが違うらしい。二人のやり取りから相手は隊商を取りまとめているトップの商人のようだ。腕組みをして、どうするかなあという顔をしている。
Γ何してるんだい、ロイは?」
Γ……ああ、そうか。私を買うのに全財産使ったって言ってたわ。」
Γええ?!」
親子が、ぎょっとして私を見た。今、安いと思った?高いと思った?
仕方ない。私はロイ達に近寄った。
Γあの…」
Γルリ。服着替えたんだ。」
ロイが私の全身をくまなくチェックする。そんな彼を押し退け、私は商人に頭を下げた。
Γ君がロイの言っていたルリだね?」
Γはい。僭越ながら、私を雇ってもらえませんか?料理はできますし、掃除洗濯なんかも…」
Γそうは言っても人は足りているが…」
人件費を計算しているのだろう。考える商人に、私は前世の知識を活用することにした。
Γ見たところ、行商をされているようですが、地理には詳しいので道案内ができます。それに各地域の特産物も把握していますし、何が仕入れに適しているかもアドバイスできるかと…」
Γほう…」
商人は見定めるように私を見て、問うた。
Γオルブ地域の特産品は何だと思う?」
Γ有名な物では、綿花の生産が盛んだからそれを原料にした肌に優しい衣類優しい寝具。でも地元では小麦の生産も活発で、それを使った菓子やパン等の食料品も密かに人気です。」
ロイが私をぽかんと見ている。この表情、さっきも見たわ。
そういえば、彼は隊商で何の仕事をしているのだろう。剣を携えているし、護衛といったところか。馬の世話では無さそうね。
Γ私はロッドだ。」
名乗った商人が、片手を差し出してきた。
Γ君を雇おう。よろしく頼むよ、ルリ。」
Γありがとうございます。」
差し出された手を両手で握り、私は社交辞令の笑みを浮かべた。ロッドは、大まかな仕事内容と給与の説明をし、前金として一か月分の給与を支払ってくれた。
Γ詳しいことは、テレサ達に聞けばいい。」
そう言うとロッドは少し屈んで、小声で聞いてきた。
Γロイは君のことを嫁だと言ってるが、本当はもしかして……買われた、のかね?」
ロイの財布事情から導きだした予想らしい。
Γ元奴隷です。断じて嫁ではありません。」
Γえぇ?お嫁さんでいいのに…」
ロイがむくれた表情で抗議する。
何でだ?
その後給与の一部をロイに渡し、私を買ったお金は分割で払って返すと約束すると、ますます悲しげだった。
Γルリの服…買い…」
ごにょごにょとロイが言っているのを無視して、私は宣言した。
Γ心配しないで。早くお金は返すから。全額返したら、晴れて自由の身。直ぐにあなたとはおさらばだから。」
Γ………うっ、うう…」
更にショボくれて、ロイがとぼとぼと歩いて行った。夕陽に照らされ、その背中はどこか哀愁を滲ませる。
買われても、主導権は渡さない。
はあ、一話が長いのはなかなか難しい。




