憎しみは糧
騒ぎに騒がれた後、私は先程の中年の女テレサとその娘のナディアと、二人の部屋代わりの幌馬車の中にいた。
Γいやあ、びっくりだわ。ロイがねえ、お嫁さん連れて帰って来るなんて。」
Γ………………」
もう、どうでもいい…と騒ぎにうんざりしていたが、ロイが取りあえずの私の着替えを二人に頼んでくれていたのだ。私は二人以外馬車にいないのを確認して、肩を隠していた手を下ろした。
Γ私は嫁なんかじゃないわ。ロイに買われた奴隷よ。」
二人が血糊の付く服を驚いて見ていた。意を決して、私は服を脱いだ。着せられたことが穢らわしくて、それを床に投げつけた。
Γ………あとで湯を沸かしてあげるよ。お風呂、入りたいだろ?」
テレサが、ぽつりと言った。そして申し訳なさそうに、早とちりしてごめんよ、と謝ってくれた。
Γルリ、よろしくね。この隊に同じくらいの歳の女の子いなかったから嬉しい。仲良くしてね。」
ナディアが恥ずかしそうに言った。歳は16だという。私が17だと言うと、お姉ちゃんね、とはにかんで可愛らしい。
Γ今の話、秘密にしとくね。」
私を安心させるように、親子が気遣い笑う。
Γありがとうございます。」
嫌だなあ、こういう親切は苦手だ。
私は手渡されたナディアの服に着替えて思った。
優しい人と死に別れることの多かった私は、親切にされることが怖い。いつか絶望に抗う力が、私の中から無くなりそうで…
私が絶望に心を堕とした瞬間、自らの魂を彼に捧げてしまうだろう。
一度は愛したあの男に。
輪廻の輪から外れて、永久に囚われ愛されるだろう。
だから憎しみは必要。
絶望を妨げる糧だから。




