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モンスター娘@問題があーる!  作者: 高辺 ヒロ
1.アルラウネ
5/35

1-幕間

 果たして『迷惑をかけた分、お金をかける』などという案を出した結果、アルラウネの生徒達がどうなったかと言うと――。

 アルラウネからの相談に返信のメールを送ってから数日後の朝。

 登校中、校門をくぐったところで、通りの真ん中を歩くジュリアの背中が目に入った。

 ニョロニョロと蛇の体を左右に振り前進しつつ、同じように首もキョロキョロと左右に振っている。相変わらず何かに怯えているようだ。


「おはようジュリア」

 後ろから声をかけると、彼女はヒッと小さく悲鳴をあげて己の紫色の長い髪を抱きしめたかと思うと、そのままの体勢で固まった。

 蛇のくせに、蛇に睨まれた蛙のごとく。


「どうしたジュリア、俺だぞ俺」

「あ、あんご君だったのね……よかったわ。おはよう」

「よかったわって。その怯えよう、一体誰に声をかけられたと思ったんだよ」

「アサシンに決まってるじゃない」

 アサシン!? 暗殺者と書くあれ!?


「私今多分狙われてるから……」

「いやないだろ。それに例えそうだとしても、アサシンはわざわざ標的に声をかけてこないんじゃないか?」

「そ、そうなの? でもアサシンって、挨拶をするんでしょう?」

「挨拶じゃなくて暗殺ね」

 挨拶をするだけなら、ただの善良な市民だ……。


「と言うかうかそもそも、どうしてアサシンに狙われてるだ何て思ってるんだよ」

「だって今日はこんな天下の往来を堂々と歩いているじゃない? 私なんかがそんなことをすれば、命を狙われて当然かなって」

 堂々と? どちらかと言うと、おどおどとしていたような気がするけど。

 しかし態度はどうであれ、確かに彼女が道の真ん中を歩いているのは珍しい。

 いつもなら人目を避けるためにかめいいっぱい端にいるのに。


「どうしたんだ今日は。何か自分に自信を持てるようなできごとでもあったのか?」

「そ、そうじゃないのよ。ただ最近は、私よりも格段に目立つ人がいるから」

 あそこを見て、とジュリアは尻尾の先で昇降口の少し脇を示した。

 その場所には人だかりができていて、登校する周りの生徒達の注目を集めている。


「あれのおかげで、お前があえて人目を逃れる必要がなくなったってことか」

「そう。まあいつも端にいるのは、目立つのが嫌だからってだけじゃないんだけどね」

「他にも理由があるのか?」

「私たちメリュジーヌって体が長いじゃない? そのくせ地面を這ってるから、尻尾とかよく気付かれずに踏まれちゃうの。それを回避するって意味合いもあるわ」

 でもこんなときくらい真ん中を歩いてみようかなと思って、とジュリア。


「そっか、前向きなのはいいことだな。にしても、一体何の集まりだあれは……」

 再び人だかりに目を移す。中心にいるのは女生徒。

 それもただの女生徒ではなく、アルラウネの生徒のようだ。

 もしかして花粉を飛ばしすぎて、とうとう花粉症の人達から猛抗議を受けてしまっているのだろうか……と思ったが、どうも雰囲気的にそんな感じではなさそうだ。

 どちらかと言えば、生徒達は皆好意的な目でアルラウネの元へと駆け寄っている。


「あれ、あんご君知らないの? アルラウネさん達が皆に飴を配っているのよ」

「飴を配っている?」

「この前『迷惑をかけた分、お金をかける』ってアドバイスをしたじゃない? でもさすがに現金を渡すのは無理だったみたい。それで、現実的なところで、お詫びの気持ちを込めて飴を配り始めたらしいわ」

「へえ。まあ悪くない選択だな。で、その飴に皆が群がってると?」

「そ、そういうことみたい。ほら、花って蜜を分泌するじゃない? アルラウネさんの下半身の花からも同じように蜜は分泌されるの。あの飴は、そのアルラウネさんの体から取れた蜜で作られているらしいわ」

 なるほど、アルラウネも考えたな。

 自分の体から取れるものを材料に使っているのなら、経費も抑えられるだろう。


「にしてもその飴、一体どんな味がするんだろうな」

「あ、甘いんじゃないかしら、飴だけに」

「はは、えっと……あれだけ皆が必死になってるとなると、相当おいしいんだろうな」

「そうね、おいしいという噂は聞くわ。でも皆が集まっている理由は必ずしもそれだけじゃないと思うの」

 どういうことだと聞き返すと、よく見てみてとジュリアは再度群集を尾で指す。


「だってあそこに集まってる生徒、ほとんど男子生徒じゃない?」

「ん? ああ、言われてみれば確かにそうだな」

 女子生徒もいないわけではないが、比率は圧倒的に男子生徒の方が高い。


「重要なのは味じゃなくて、アルラウネさんの体から取れた蜜、という部分のような気がするわ」

 ふむ。それを聞いてからアルラウネの元に向かう生徒達をもう一度窺ってみると、好意的なと言うよりは、どこか下卑た目をしているようにも見える。


「気がすると言うか、こ、この前クラスの男子が、あの飴を貰えるなら花粉症になってもいい、みたいな話をしているのを聞いてしまって……」

 まったく。気持ちは分かるけど、男という奴は何と単純なんだ。

 しかしまあこれで、彼女達アルラウネの立場はそれなりに回復しそうだし、めでたしめでたしなのかな。

 そんなことを考えつつ、俺はそっと群集の中に紛れ込んだのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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