6-3
「じゃあセレナ。発表してくれ」
「イメージを拭い去るために、服を脱ぎ去るというのはどうでしょう?」
「お前も駄洒落かよ……」
ただ俺の反応とは逆に、ジュリアはその駄洒落面白いとテンションを上げていた。
「なぜ服を脱ぎ去る? そこに駄洒落以上の意味があるんだろうな?」
「もちろんあるに決まってるじゃないですか」
そう言って彼女は、自論を展開し始めた。
「いいですか先輩。素っ裸で何の恥じらいもなく仁王立ちしている女性と、裸に靴下を履き恥ずかしそうに己の体を抱く女性。どちらにエロスを感じますか?」
「そ、そうだな……まあ何と言うか、それなら、後者だな」
俺は少しためらいながらもそう答えた。
やはり何事も恥じらいがなければ。堂々とされすぎると、興ざめだ。
「さすがは先輩、分かってますね」
そんなことを褒められても、正直嬉しくはないが……。
「だからこそです。だからこそサキュバス達は恥じらいを捨て、普段から素っ裸で過ごすべきなんです」
「ちょっと待って、それは話が飛躍しすぎじゃないか?」
「そんなことはありません。今の話と合わせて考えてみてください。今のサキュバス達は、自分達の性的なイメージを変えたいとその部分を隠している状態です。そんなことをするから余計気を引き性的なイメージを持たれるんです」
普段から素っ裸で全てをさらけ出しておけば、逆に気を引かず性的なイメージはなくなるはず。それがセレナの案の結論だった。
「いや、それは男子の性欲舐めすぎだと思うぞ?」
「え、わたしそんなに男子の性器舐めてました?」
「え、性器? そ、それはお前のプライベートなことだから知らないけど……」
「誤解ですよ。まだ一本も口にしてないですし、そもそもわたし先輩の一筋ですから」
の、って? の、って何!?
「あ、先輩。『一筋』の『一』って字、先輩のあそこにそっくりですね」
「どこが!?」
「先の方がちょっぴり膨れ上がってるところとか」
それは全ての男性器に言えると思いますよ!? と言うか俺の見たことないよね!?
「ってそんな話じゃない! 俺が言ったのは、男子の性欲舐め過ぎ、だ」
「そうでしたか。でもどういうことです?」
小首を傾げるセレナに、俺はこれまた少しためらいながらも説明をする。
「恥じらいがあるかないかで言えば、確かにある方がいい。でもそれは別に恥じらいがない女性に魅力がないということではないからな?」
恥じらいがあろうとなかろうと関係ない。
結局のところ男にとって女性の裸体は魅力的なのだ。
「つまりそれをサキュバスの話に置き換えると。性的なイメージを隠そうとしようとしまいと、今持たれているイメージに変化はないと? ならダメですねこの案は」
「ダメだな。大体素っ裸で過ごすとか、サキュバス達も嫌だろ」
「でしょうね。さすがのわたしでも服を着ずに過ごすというのはちょっと無理ですし」
正直セレナには、その体にだけでなく歯にも衣を着せて欲しい。
歯にと言うか、言葉にも衣を着せて欲しい。素っ裸の下ネタばかり発しやがって。
「さて、となると他の案を出さないといけないわけですが。どうしましょう」
「ないならないでも構わないぞ? 無理に出せ、とは言わない」
「でもその代わり尻を出せ、と言うんでしょう? 先輩ってすぐに尻を要求するじゃないですかぁ。この前も職員室前で先生に要求していたの、わたし見てたんですから」
いや、そんなことをした覚え一度もないんだけど……。
「あ、その顔は覚えてないって顔ですね。なら思い出させてあげます」
「いいって、そんなことより――」
「ほら、二日ほど前ですかね?」
はあ……まあいいか、しばらく付き合ってやろう。
「職員室の前の廊下で先生に呼び止められましたよね。『君のクラスの田崎を探してるんだけどどこにいるか知らない?』って」
「あー、確かそんなこともあったな」
俺を呼び止めたのは、田崎の所属している部活の顧問をしてる男性教師だったか。
プリントを渡したいけど田崎を見つけられないとか何とか。
「そのとき先輩こう言ってたじゃないですか。『尻出せい』って」
「『知りません』だよ!」
どうしてそのタイミングで尻を要求する!? しかも相手は先生で男だぞ!
「このように、先輩はすぐに尻を要求する人間ですからねえ」
「おいセレナ、勝手に変な話作るんじゃない」
「話作ったことなんてないですよわたし。ぱんつくったことならありますけど」
それはどっちなの!? パン!? パンツ!?
「もういい! 他の案があるのかないのか、ハッキリしろ!」
「尻ますよ? じゃない、ありますよ?」
どんだけ尻の話がしたいんだコイツは……。
「あるんだな? じゃあそれを早く発表してくれ」
セレナは、はーいと反省の色の窺えない返事をし本題に戻る。
本当に困ったものだ。脱線しすぎにも程がある、少しでも付き合った俺が馬鹿だった。
「ではでは、自分は飛び級でこの高校に来ており、年齢で言えばまだ幼稚園児だと周りに説明する。というのはどうでしょう」
「なぜそんな説明をするのかよく分からないが、まずそんな説明を周りが信じるのか?」
高校生並の知能を持った幼稚園児? どこの天才児だよ。
ある分野にだけ特化してとかならありえるかもしれないけど。
それに知能だけでなく、外見も幼稚園児にしては発育がよすぎるだろう。
そもそも日本においてそのレベルの飛び級は認められるのか……?
少し考えただけでもこれだけの疑問が出てくるのだ、到底信じてくれるとは思えない。
「先輩、信じてもらえるかもらえないかじゃないんです。信じさせるんですよ。体はなるべく小さく見せ、舌足らずなしゃべり方にして。幸いサキュバスは亜人ですし、亜人だから人間とは色々違うんだよ~とか言っとけば多分騙せます」
いや……既に目の前の俺を騙せていないんだけど。
ただそんなことを言っていては何も始まらないのも確か。
だから今問題とすべきは、どうしてそんな説明をするのか。
「続きを説明してくれるか? セレナ」
「分かりました。どうしてこんなことをするのかと言うとですね、さすがにそんな低年齢の女性、いや女児を相手に、性的な連想をする男性はいないだろうと考えたからです」
「なるほどな。お前の考えたとおりだとしたら、もしサキュバスが幼稚園児相当の年齢だと周りに信じさせることができれば、もう性的なイメージは持たれないだろうな」
「でしょう?」
「ただお前の考えは間違ってる、いるんだよなぁ……」
女児を見て性を想起する男性は。
「そう言えば何だか聞いたことがあるような気がします。そういう人種、何て言うんでしたっけ? オジサン?」
「ロリコンね!」
『ン』しか合ってないよ!
「ああそうですロリコンでした。でもロリコンのほとんどってオジサンでしょう?」
「それは偏見だろう」
単純に未来の担い手として女児を慈しむオジサンもいれば、特殊な性癖を持ち女児に変な目を向ける若者だっているはずだ。
もちろんその逆も十分あり得るけども。
「まあロリコンと呼ばれる人種がいる限り、その案は通用しないな」
と言うかむしろ逆効果になるかもしれない。高校生並みに発育のよい女児。
そんなの今まで以上に性的に注目を浴びるに決まっている。
「ですか、難しいですね。ちなみにロリコンって何かの略語っぽいですけど、何の略なんですか? ローリスク何ちゃらですかね?」
ロリはハイリスクだと思うなぁ……。
「ロリコンって言うのは、ロリータコンプレックスの略。まあ詳しくは自分で調べてくれ」
「分かりました。ならこれ借りますよ」
言うが早いか、セレナは俺の膝に腰を下ろし目の前のパソコンを操作し始める。
どうやらここで今すぐ調べるらしい。
構わないけど、ということはもう他に案はないのだろう。
なら後はハッピーだけか。
読んでいただきありがとうございました。




