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5-幕間

 果たして『大きな袋の中に入っておく』などという案を出した結果、ゾンビの生徒達がどうなったかと言うと――。


 ゾンビからの相談に返信のメールを送ってから数日後の朝。

 学校に向かう途中、駅のホームから出たところで後ろから突然両肩を鷲掴みにされ、俺は驚いて振り向いた。

 しかしそこには誰もいなかった。少し離れたところに同じように登校する生徒や出社するサラリーマンの姿はあるが、俺の体に触れられる距離に人はいない。

 変だなと思いながら、不意を付くように反対側を振り返る。

 しかしやはり誰もいない。そんなことを数回繰り返していると、慣れ親しんだ声がした。


「何やってんだあんご」

 首を反らして上を向いてみると、頭上には金髪女子の不思議そうな顔が。


「それはこっちのセリフだハッピー。お前はそんなところで何をやってるんだ」

 冷静になって自分の肩に視線を移す。

 そこにはハーピー特有の鳥に似た足があった。

 鍵爪が服に食い込み、正に鷲掴みの様相だ。


「休憩に決まってんだろ。疲れたなーと思ってたら丁度あんごが駅から出てきたからさ」

「人を止まり木みたいに言いやがって」

「止まり木じゃねえ、あんごは動いてるから動き木だ」

「何だよ動き木って。掴まれば自動で学校へってか? 俺はオートウォークでもないぞ」

「ローストポーク?」

「もっと違う!」

 と言うか止まり木というのは鳥が止まる木だから止まり木なわけで、木自体が動いていようが鳥が止まっていればそれはやっぱり止まり木なんじゃないだろうか。


「まあまああんご。ワタシは歩くのが上手じゃないからさ、このまま連れて行ってくれよ。その代わりにとっておきの回文を見せてやるから」

 頭の上から視界を遮るかのように、付箋が貼られた数学の教科書が差し込まれる。

 付箋には、『ここを開け』との文字が。

 俺はそれを受け取り、目的地学校へと歩を進めながら指定のページを開いた。

 幸いなことに、ハーピーは種族全体的に飛行をするため小柄で非常に体重が軽く、歩行に支障はない。


「はまったんだな回文に。でもこの教科書のどこに回文が書かれてるって言うんだ?」

 付箋の貼られたページを開いてみたが、これといって落書きがされているわけでもない。

 せいぜい何らかのシミがあるくらいで、後はいたって普通の教科書の一ページだ。


「書かれてるだろ! ほらそのシミ。何のシミだと思う?」

「さあ、スナック菓子でも落としたか?」

「よだれだよ!」

「よだれかよ!」

 って、あ『よだれだよ』、回文!


「お前のとっておきってこれのことなのか?」

「そ、数学って退屈でよ、起きてられないんだよな。でもそのおかげで回文はできた」

 いや、文を回してないで、その頭を少しでも数学に回せよ……。


「あ、そう言えばあんご。回文作ってたときの相談ってどうなったんだ?」

「え、あ? 回文作ってたときの相談?」

 今までのやり取りがあたかもなかったかのような、唐突な話題変換。

 三歩歩いてなくても、ハーピーは結局こうなるらしい。


「ゾンビのやつか?」

「ゾンビだったっけ? カルビだろ」

「いいやゾンビだ。あれはな、何だかんだで解決したぞ」

 俺はハッピーにも分かるように噛み砕いて説明をしていく。

 初めは俺達がした返信どおり、ゾンビ達は全身を大きな袋で覆い生活することを選択していた。

 だがさすがにそんな姿で生活するのは嫌になったのだろう、次第に彼らは全身タイツや着ぐるみなど、全身を覆えてかつ見た目にもこだわった服装をするようになっていった。


 それでゾンビの悩みは一時解決されたのだ。

 がしかし校則違反だと学校側がそれをやめるよう指示を出した。それにゾンビ達は激怒。

 ゾンビの生徒の身の安全はどうなるんだと、親まで出てきて猛抗議をした。

 そんなわけで騒ぎを収めるため教師側と生徒側で話し合いの場が持たれ、結果、急遽周りと同じデザインで全身を覆える形態の制服の作製が、決定されたようだ。


「まあまだ完成はしてないみたいだけどな」

 一通り説明を聞いたハッピーは、ふーんと興味なさ気に相槌を打った。

 既に自分が質問したことすら忘れてしまっているのかもしれない。


「よしあんご、もう疲れは取れた! お礼に今度はワタシが学校まで連れてってやる!」

 言うが早いか彼女は肩を掴む足に更に力を込め、立ち上がり翼を羽ばたかせ始める。


「ちょ、ちょっと待てハッピー、ストップ!」

 にわかに宙に浮き始める体。


「大丈夫だって! 怖くない怖くない」

「いやいやいやいや怖いわ!」

 何せ安全バーも命綱もないのだ。

 ハッピーが少しでも力を緩めれば……そんなこと想像するだけでも恐ろしい。

 俺は何とか下ろしてもらおうと、交渉するため再び首を反らして上を向いた。

 だがそこで俺は、地獄から一気に天国へと駆け上がることとなったのだった。

 ハッピーが今身に纏っているのは、全身タイツや着ぐるみとは比べ物にならないくらい防御力の低いスカート。

 彼女の真下にいる俺にしてみれば、低いどころかその防御力はもはやゼロ。

 つまり、おパンツ様が丸見え。


「これはハーピーの制服にも改善の余地が。いやでもそうなると今後見られなく……」

「何ブツブツ言ってんだ? あんご」

 色々と悩ましい道中なのであった。

読んでいただきありがとうございました。

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