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「それじゃあ最後にキュート、発表してくれるか?」
「いいだろう。とりにふさわしい案をくれてやる」
意気込んでくれているとこ悪いんだけど、正直そのやる気が心配にしか繋がらない……。
「まあ簡単だなこれは、吾妻君に聞けばよいのだ」
「あ、吾妻君? 誰だよそれ」
「ことわざ『拾おと思わば吾妻君』の吾妻君だ」
いやだから誰だよ。
元のことわざは『人を呪わば穴二つ』かな?
「吾妻という苗字の人間は、なくした物がどこで拾えるのかがわかるのだろうな」
「人間にそんな能力者はいないと思うけど」
「いるのだなこれが。だから手っ取り早く体を拾い集めたければ、彼に聞くとよい」
「だけどキュート、そうなると吾妻君に連絡を取る必要があるよな?」
とりあえず吾妻君にそんな能力があるかどうかは置いておくとして。
「いいや、吾妻君に煙幕を張る必要などないが」
そりゃないだろうよ……。
「言い換えよう。吾妻君と接点を作る必要があるよな?」
「さっきから何を言っているのだあんご様。吾妻君と石鹸を作る必要もない!」
「何を言ってるのだはこっちのセリフだ! お前の耳はどうなってるんだ!?」
それとも俺の滑舌が悪いのか!?
「石鹸じゃなくて接点! 『け』じゃなくて『て』だ!」
「けじゃなくて手田?」
手田誰!? そして吾妻も誰!?
「まったく、あんご様は一体何の話をしているのだ?」
だからそれはこっちのセリフだって。
「いいかキュート、最初から噛み砕いて説明するからよく聞け?」
「よかろう」
よかろうじゃねえ……。
「吾妻君が落とした物の場所を教えてくれるとしてだ。それを教えてもらうには、吾妻君とコンタクトを取る必要があるだろ?」
直接対面せずとも、電話なりメールなりで連絡が取れる状態でなければならない。
「そうだな。そうでなければどこで拾えばいいのか聞くことができないからな」
「うん。で、その吾妻君とはどうすればコンタクトが取れるんだ?」
そんな都合よくゾンビの知人に吾妻君がいるとは考えられない。
「そんなことは知らん。眼科へでも行け」
それで得られるのはせいぜいコンタクトレンズだけだ。
「……それじゃあその案は却下だな。他の案を出してくれ」
どんな能力者が居たところで、繋がる方法がないのでは話にならない。
それ以前に吾妻君にそんな能力があるとはやっぱり思えないけど……。
「ふん。吾妻君に聞けないのなら乳母に聞くしかあるまい」
「う、乳母?」
乳母って確か、生みの親に代わって子どもを育てる役目の女性のことだっけ。
今で言う、ベビーシッターみたいな。
「いつの時代も、何かを見つけるのは決まって乳母なのだ。となれば乳母に聞くのが一番よいだろう」
つい今しがた吾妻君に聞くのが一番みたいな話をしていたくせに……。
「何だあんご様その顔は。ことわざに文句でもあるのか?」
「ことわざには文句はない。と言うかそんなことわざあったか?」
別に俺はことわざ博士ではないけども、『乳母が探し物を見つける』に類似した意味を持つことわざを見聞きしたことは一度もない。
「貴様知らないのか? 彼の有名なことわざ『見つけたの乳母なの』を」
「『水を得た魚のよう』だよ多分!」
何だよ見つけたの乳母なのって! お友達との雑談か!?
『あ、トモ子ちゃん、探してたお人形見つかったんだね』
『そうなの、見つかってよかったよ』
『昨日あんなに探してもなかったのに、どこにあったの?』
『分からない。見つけたの乳母なの』
ってバカ!
はあ……しかしこのレベルの覚え間違いを正せる自分にもビックリだよ。
よく分かったな俺。もうことわざ博士を名乗ってもいいんじゃなかろうか。
「それで、その乳母とはどうやってコンタクトを取るんだ?」
乳母が落し物のありかを知っているわけがないという突っ込みは、無駄なのでしない。
「パソコンで検索でもすればよい。そうすれば連絡先くらい簡単に手に入れられるだろう」
「まさか落し物のありかを聞くためだけにベビーシッターを雇うとでも言うのか?」
そうだが? と、それがどうしたと言わんばかりに目を丸め答えるキュート。
「そんなことしたら迷惑だろうが」
「拘束した時間分の適正料金を払えば問題あるまい」
「問題ある。そんなことのためにべビーシッターはいるんじゃないの」
会社が提供しているサービス以外の目的で雇うことは、きちんとお金を払おうともできないだろう。
「ならベビーシッターではなく、ジャックザリッパーでも雇うか」
「余計体がバラバラになるわ!」
「しかし切り裂きジャックはどうすれば雇えるのだろうな」
「どうしても雇えないだろ。ジャックは傭兵とかじゃないんだから」
「そんなことは知っている。ジャックとは傭兵ではなく権兵衛。日本でいうところの名無しの権兵衛に相当する言葉だ」
「そんな豆知識を披露している場合か?」
「豆の木? ジャックと豆の木の話か?」
全然違うのだが……。
「なるほど。そちらのジャックを雇うというのはいいかもしれんな。何せ彼は己の何倍もある巨人の住む広い城の中から、結構な短時間で財宝を見つけ出すほどの男だ。落とした体くらいすぐに見つけだすに違いない」
「かもしれないな。そのジャックが現実にいればだけど」
残念ながら彼は童話の中の登場人物。実在はしない。
「子孫くらいいるかもしれんぞ? 誰も探さなかっただけで」
「そんなわけないだろ」
「だが世の中には不思議なことがたくさんあるからな。ほら言うだろう? 『事実は小説よりも豆の木なり』と」
「どっちも豆の木ではないよ!」
事実は事実だし! 小説は小説!
「もしかしたら吾妻君こそが、ジャックの子孫かもしれん」
「でも結局コンタクトは取れないんだろう?」
「うむ。そのとおりだ」
何の迷いもなく言い切りやがったぞコイツ……。
「なら何であれ却下だな。悪いけど。他に何か案はあるか?」
再びの俺からの問いかけに、彼女は首を横に振って見せた。
読んでいただきありがとうございました。