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「じゃあ今日はもうまとめに入ろうか」
そう宣言し。光るPCの画面に目を向けた。
・バナナで口を塞ぐ(く、君子早起きはしておらず)。
・自分で自分の口を馬鹿にする(る、ルイは保母を呼ぶ)。
・自分がヒキガエルになったと思い込む(む、虫が通れば踊りだ日本)。
・友達に自分を脅してもらって、問題を出そうとすれば思わず口をつぐんでしまうくらい、精神的に追い込んでもらう(う、ウホと筍)。
・問題を出しそうになったら、周りの人に胸を揉みしだいてもらう(う、馬の耳を見物)。
・出題癖はあなた達にとっての性欲と同じようなものなのと男子に説明する(る、ルイはロボを呼ぶ)。
今日出た案は、これで全部。
「それで、この落書きをしたのはキュートだな?」
こんなデタラメなことわざを並べるのは、こいつしかいない。
案の定そうだとなぜか胸を張って答えたキュート。
「ジュリアが聞かせてくれと懇願してきたのでな。どうせならお題が欲しいと思い、しりとり形式にしたのだ」
「なるほどね……」
だから全部解決案の最後の文字と同じ文字で始まることわざばかりなのか。
「まあ全部間違ってるけどな」
「何? 全部間違ってるだと?」
「そうだ。何だよ『君子早起きはしておらず』って。意味が分からないよ」
それを言うなら、『君子危うきに近寄らず』だろう。
「意味なら簡単だ。これは『君子は何か偉そうに色々言ってるけど、早起きはしていませんよ』という意味だ。多分君子のことが嫌いだった弟子が世間に告げ口をしたのだろうな」
よくもまあそんな何のありがたみもない言葉が後世まで残ってたな!
「全部と言ったがあんご様、『ルイは保母を呼ぶ』もおかしいと言うのか?」
「おかしいよ。ルイってまず誰? 何で保母さんを呼んでんだよ」
正しくは、『類は友を呼ぶ』だ。
「ルイとはルイ君のことだ。彼は保育園に通う子どもだ」
「なら何だ、これはルイ君が先生を呼んだの図なのか!?」
「そうだ。日常の一瞬を切り取ったよいことわざだな」
アホか!
「そして『虫が通れば踊りだ日本』って何!? 何のキャッチフレーズだよ!」
『無理が通れば道理が引っ込む』だろ!
「よくキャッチフレーズだと分かったなあんご様。これは大昔に行われた大会のキャッチフレーズがことわざと転じたものだ」
「大会? 何の?」
「詳しくは知らんが、虫が目の前を横切れば皆で踊り出す大会だと聞いている」
そんな大会が開かれた日には日本は終わりだよ!
「だが『ウホと筍』は間違ってはいまい」
「間違ってるよ。『雨後の筍』だよ」
「そうなのか? ウホ、と筍が鳴いたという意味だと聞いたのだが」
「筍は鳴かないから!」
鳴いたとしてもウホとは言わないと断言できるね!
「『馬の耳を見物』はよく耳にするが。これも間違いと?」
「『馬の耳を見物』じゃなくて『馬の耳に念仏』だ」
「はは、馬鹿めそんなことをして何になる。無駄だろうが」
そういう意味なんだよ!
「で最後! ルイ君違うもの呼んじゃってるけど!?」
「いや同じだぞ。ルイ君にとって先生はロボなのだ」
嫌な認識だな!
「はあ、ツッコみが追いつかないよ」
そろそろ本格的に間違いを正していかなければ気がする。
がしかし今は部活中だ、それはまたの機会として。
「ごほん。それじゃあ今回はどの案を採用するか決めてくぞ」
にしてもおかしい……今回は少し真面目な回答をよろしくとお願いしたはずなのに、いつもとちっとも変わらない。
だからと言って日を新たにしてもう一度話し合をしようと提案など、もちろんしない。ここは消去法で選ぼう。
「とりあえずセレナの案は全部なしだな」
「え、わたしの案って全部梨だったんですか?」
「梨ではない。お前の案は案だ。プランだ」
「え、わたしの案ってプラムだったんですか?」
「こっちが聞きたいわ!」
お前が今日の話し合いで出したのはフルーツだったのか!?
フルーツの盛り合わせだったのか!?
「まったく……で、ジュリアの案も全部なしだな」
「や、やっぱりそうなのね。結構いい案を出せたと思ったんだけど……」
「まあこの中にあるとそこそこ普通に見えるけどな」
冷静に考えるとやっぱり違う。
「え、嘘、私の案ってこの中にあるとそこそこフルーツに見えるの!?」
「フルーツには見えない!」
何なんだコイツら二人して、選ばれないからせめてもの抵抗をしようという算段か?
「おいあんご様、我は正真正銘果物的な案を出しているぞ?」
「果物的な案って……バナナのやつのことか?」
まあ確かに果物っぽい案と言うならば、キュートの案が一番そうだと言えよう。
だからと言うわけではないが、今回俺はキュートが出した『バナナで口を塞ぐ』という案を採用することに決定した。
やはり問題を出しそうになったら何かで口を塞ぐというのは、簡単に実行できて、尚且つ一定以上の効果が得られそうだ。
ただその何かがバナナというのはどうかとは思うが、そこら辺は相談者に委ねよう。
こちらの提案どおりバナナで塞ぐもよし、その他の何か適当なもので塞ぐもよし。
そんな補足事項も含め、返信のメールを書き上げる。
「最終的にどうするかは、ご自分で選択していただければと思います。それではまた何かあれば、ご相談ください」
いつもどおりの定型文を最後に打ち込み、誤字脱字をチェックし送信ボタンを押した。
「さてと。少しいつもより時間は早いけど、今日はもう帰るか」
PCをシャットダウン。今日の部活、これにて終了。
今日も読んでいただきありがとうございました。