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しんと静まり返った部室で、初めに手をあげたのはキュートだった。
「何かで口を塞いでしまうというのはどうだろうか」
「なるほど。乱暴だけど、悪くないかもしれないな」
口が塞がってしまっているなら、問題を出したくても出すことができない。
「でも何で口を塞ぐのが適切なんだろうな。そこら辺は考えてあるのか?」
「ああ考えてある。昔の人がな」
「昔の人ってことは、またことわざかよ」
「うむ。彼らは言っている、『言わぬはバナ』と」
「バナって何!?」
正しくは『言わぬが花』だよね!?
「バナとはだからあれだろう。バナナだろう」
「バナナなの!? 何で『ナ』を一つだけ略したの!?」
と言うかその略された『ナ』は真ん中の『ナ』!? それとも最後の『ナ』!?
「吾輩はバナである、ナは一つない」
夏目漱石に謝れ!
「そういうわけだ。何か言い出しそうになったら、バナナで口を塞げ」
「何がそういうわけかが分からないんだけど……」
真面目にやってくれと言ったそばからこのふざけよう。先が思いやられる。
「それにそれはそれで周りの生徒に嫌がられないか?」
何せ今度は、会話をしていたら突然バナナを口に突っ込む亜人になってしまう。
正直突然問題を出してしまう現状よりも、更に数段上をいく奇行だ。
「知らんな。出題するのを控えたい、その願いは叶うのだからそれでいいではないか」
「んーだけどなぁ。口を塞ぐものとして、他に何か道具はないのか?」
何かで口を塞いでしまう、という部分まではそれなりに有用な案なのだ。
これをもう少し発展させれば、解決にたどり着けるかも知れない。
「ないな。あんご様、先生バナナはお菓子に入りますか? という質問には何と返すのが正しいと思う?」
「さあ。個人的な意見はあるけど正しいかは分からないな。何て返せばいいんだ?」
「いいえバナナはお口に入ります、だ」
それは質問に対する答えに全くなってないんだが?
「何の話をしてるんだお前は」
「口を塞ぐ道具はバナナしかあり得んという話だ」
「そうですか。じゃあその案は何と言うか、保留だな」
いい案になりそうだっただけに残念だが、これ以上と議論を重ねても無駄だろう。
「保留にして、他に何か案があれば発表してくれ」
「あるに決まっているだろう、最終手段が」
二手目にしてもう最終手段か……。
「最終奥義と言ってもいいがな。自分で自分の口を馬鹿にするのだ」
「はぁ……それで一体何がどうなるんだよ」
聞いても無意味だろう事は既に予想が付いているが、念のために聞いてみる。
「口が落ちる」
「え、は、口が落ちる? そんなわけないだろう……」
「いやそれが落ちるらしいのだ。よく耳にするだろう? 『口はあざ笑うとボト』」
「『口は災いの元』だよ!」
ボトって! 確かに何か落ちてるけども!
「そうして口を取ってしまえば、もう問題を出さずに済むだろう? とりあえず、臭いだとかカサカサだとか己の口を馬鹿にし続けろ。我の予想だと三日もすればボトだ。ふふっ」
「何がふふっだ。そんなことで人体が欠けてたまるか」
そんなことをして落ちるのは、せいぜい自分の気分くらいのものだろう。
「大体それで落ちるとしても、口がなくなったら生命活動が維持できないじゃないか」
「だからそういう二次被害的なものは知らぬと言っているだろう」
「知らぬって、善後策も含めた案を出してくれないと」
目先のことが解決すれば後のことはどうでもいいみたいな、そんな案ではダメなのだ。
「全五作? 我は夏目漱石ではない、そんなに書けるわけがないだろう」
夏目漱石は全五作どころじゃない量の本を書いてるのだけど……。
「しかしそれにしても彼の文豪の逸話は面白いな」
「I love you.の日本語訳の話か?」
「そうだ。確かえっと『月が異例ですね』だったか」
「もの凄く大きかったのかな!?」
「我も彼くらいのセンスが欲しいものだ」
一生かかってもお前には無理だよ……早く夏目漱石に土下座しろよ。
「さてと、案の方だが。これでもダメならもう次はないぞ? 後我に言えることは死ねということだけだ。『死人に口なし』と言うからな」
だからどうしてこういうときだけ正しいことわざを使ってくるんだ。
「それじゃあ『控える』どころじゃないじゃないだろ」
そう呟いた俺の横で、あっと何かを思いついた様子のジュリア。
「ねえねえあんごくん。控えるとヒキガエルって似てると思わない?」
嬉しそうに何を言い出すかと思えば……またわけの分からないことを。
「まあ決して似てないわけではないと思うけど」
「そうよね。それでね、自分がヒキガエルになったと思い込むっていうのはどうかしら」
いや、どうかしらと問われても……何がそれでその案に至ったのか、そしてその案がどういう意図を持つのか、いまいち理解しかねる。
俺が困惑しているのを表情から見て取ったのか、ヒキガエルさんには大変申し訳ない言い方になるんだけどと前置いた後、彼女は説明をし始めた。
「自分がヒキガエルになったと思い込めば、きっと自分に自信がなくなるでしょう? そして自信がなくなれば、他人に問題を出そうだなんて考えなくなると思うの」
「なるほどね。でもそうかなぁ?」
「そうよ。だって実際自分に自信のない私は、誰かに問題を出そうとは思わないもの」
相変わらず、卑屈さたっぷりの案だ。
「多分私にももっと自信があれば、たくさん出題したんでしょうね……」
「どうだろう。別に人は自信を持つと出題し始める生き物ではないと思うけど」
「いいえ出していたわ」
そんなところだけ自信たっぷりに断言されても困るのだが。
「例えばそうね、ある男性が怪我で入院した日の晩、大きな『リュウ』が自分の住む『まち』を襲っている夢を見ました。男性はなぜ入院したでしょう」
「リウマチだ!」
「怪我です」
「怪我だ!!」
くそう! 即席にしてはなかなかの引っ掛け問題を出してきやがって!
「あ、次の答えは簡単よ。あきら君のお父さんには三人の子どもがいます。みきや君とまりなちゃん、後一人の名前は?」
「あきら君!」
「簡単です」
「簡単君!?」
そんな理不尽な問題あり!?
「えっと、他には……」
「いやちょっと待てジュリア。クイズは結構楽しかった」
「本当に? 嬉しいわ。ありがとう」
「でもな、クイズじゃなくて、今は解決案を考えて欲しいんだけど」
とりあえず、ヒキガエルになったと思い込むという案はメモしておくとして。
「そ、そうよね。ごめんなさい。ヒキガエルになったと思って必死に考えるから許して」
ヒキガエルになったら何も考えられなさそうだけど……。
今日も読んでくださりありがとうございました。




