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モンスター娘@問題があーる!  作者: 高辺 ヒロ
4.スフィンクス
16/35

4-1

 校舎にチャイムの音が響き渡る。

 今日も今日とて、ノープロ部の活動の始まりだ。


「点呼をとるぞ、席に着いてくれ。それと、今日は部活を始める前に話しておかないといけないことがある」

 現在部室に姿があるのは、メリュジーヌの亜人ジュリアと、スキュラの亜人キュート。

 しかし何やら仲良くお話中のようで、真っ直ぐな紫のロングヘアの彼女と、真っ赤なボブヘアの彼女には、俺の声は届いていなかった。


「ど、どうかしらキュートちゃん。このお菓子、私にしては上手に作れてるでしょ?」

「うむ、これは美味だぞジュリアよ」

「ビミ? 微妙な味って事かしら……」

「いや、おいしいという意味なのだが」

「惜しい? そっか、何か材料を間違えたのねきっと」

「違う。イケると言っているのだ」

「ウケるって、そんな酷いわキュートちゃん」

「よく聞け、ウマい、ウマいのだ」

「そうよね、私にお菓子なんて貰ってもウザいだけよね。ごめんなさい」

 仲良くお話中……なのだろうか。

 いまいち話が噛み合ってない気がする。がそれはさて置き。


「あのー二人とも、そろそろいいか? 話があるから席に着いて欲しいんだけど」

 もう一度声をかけると今度は届いたようで、ジュリアがこちらに寄ってくる。


「ちょっと待ってねあんごくん。席に着く前に、作ってきたお菓子を食べて欲しいの」

 言って、ハートマークのあしらわれた小袋をこちらに差し出す彼女。

 覗いてみると、そこには綺麗に焼き上げられたクッキーが入っていた。

 なるほど、これを食べておいしいだの何だの話していたわけか。


「も、もちろんいらないなら無理にとは言わないんだけど……」

「いや、もちろん貰うよ」

 開かれた袋の口から、ふわっと甘くほのかに香ばしい香りが漂ってくる。

 昼食で得たエネルギーも午後の授業で程よく消費され、小腹がすいてくる頃合。

 耐えられるわけもなく、お礼を言うなり即それを口へと放り込んだ。


「ど、どう? キュートちゃんには酷評を貰っちゃったんだけど」

「うん。これは――」

 おいしい、と言いかけて咄嗟に口をつぐむ。

 さっきの二人の会話を思い返す限り、感想の言葉選びには気を使わないと。

 またぞろネガティブな聞き間違いを発動されかねない。


「えっと、そうだな。ヤ、ヤミー。ヤミーだな」

「闇……そう、なるべく焦げていないのを持ってきたつもりだったんだけど」

 ごめんなさいと彼女。どうやら俺の食リポは失敗に終わったらしい……。

 ジュリアを中心に、部室に何とも言えない空気が流れ始める。

 どうしようかと頭を抱えていると、この空気から脱出する糸口が。


「これはギリギリセーフですかね!?」

 セイレーンの亜人セレナが、一つに纏められた波打つ青く長い髪と尾ヒレを盛大に宙にうねらせ、大慌てで部室に飛び込んできたのだ。

 まさか船を難破させるという伝説を持つ彼女から助け舟が出されるとは。


「どうなんですかあんご先輩! アウト!? セーフ!? よよいのよい!」

「野球拳を始めるな。それはアウトだ」

 部室でそんなことをしているのが教師にバレたら、怒られるくらいじゃ済まないぞ。


「ただ遅刻に関してはセーフってことにしておこう」

 本来ならばチャイムが鳴り終わるまでに部室にいなければアウトだが、今回は助けられたのだ、これくらい多めに見てやらないと。


「わたしがセーフってことは、先輩はアウト、つまり負けってことですよね? はい、じゃああんご先輩一枚剥いてくださいね」

「剥いてくださいって何だ、せめて脱いでくださいと言え!」

「ヌいてください?」

「その発言はアウトだよ!」

「なるほどつまり次はわたしの負けというわけですね。では罰として――」

「ちょっと待てセレナ、脱ぎますとか言い出すなよ?」

「そんなこと言うわけじゃないですか、何考えてるんですか? 罰として、一回浮きます」

 罰が軽過ぎないか? そもそもお前常に浮いてるし……。

 いや別にいいけども。


「と言うかいつまでも遊んでないでさっさと座れ。さもないと遅刻扱いにするぞ」

 別に遅刻したところで、何かペナルティがあるわけではないが。

 はーいと返事をして席に着くセレナ。


「ね、ねえセレナちゃん。セレナちゃんもこれ、食べてみてくれない?」

 そこにすかさず、ジュリアがクッキーを手渡しに近づく。


「手作りクッキーですか? 凄いですねジュリア先輩、こんな物が作れるなんて」

「こんな物を作ってしまってごめんなさい……」

「それじゃあいただきますね」

 ネガティブ発言を無視して、セレナはクッキーを一枚口へと運んだ。


「いやーこれはおいし――」

「待てセレナ。感想を言うときは気を付けろよ、迂闊なことを言うとしょげるからな」

「そうなんですか? じゃあえっと、グーですよジュリア先輩」

 感想を聞いて、あからさまに肩を落としだすジュリア。


「ブーって言われた、セレナちゃんにブーって言われたわ」

 どうやらセレナの食リポも失敗したようだった。


「皆にクッキーを否定されて、私の心はグッキー……」

 再び色んな意味で何とも言えない空気が部室に満ちる。

 なぜメリュジーヌというのはこうも自ら底を目指すのだろう。


「あ、えっと、それで、話しておかないといけないことっていうのはだな」

 俺はこの空気を早々に打破するため、点呼を飛ばし報告を始める。



 ◆◇◆



「日馬君、ちょっといいかい?」

 それはつい先程のこと。いつものように部室に向かおうと、本校舎と部室棟とを繋ぐ渡り廊下に出たところで、後ろから誰かに呼び止められた。

 はいと返事をしつつ振り返ってみると、そこにいたのは短髪で眼鏡の男性教師。


「ああ、志藤先生。どうかされましたか?」

 志藤先生。三十台半ばにしては随分若く見える彼は、国語担当の教師にして、一番のさぼり魔で有名なノープロ部の顧問だ。

 授業以外でお見かけするのは、部長の俺ですら随分久しぶりのことになる。


「いや、部活のことなんだけどね」

「何か問題でもありましたか?」

 我ながら白々しい。ノープロ部は何か問題があるのではなく、何もかもが問題である。


「あると言うかないと言うか……君達が出してる案ね、あれ全然やる気がないよね?」

 志藤先生も、若干呆れ顔だった。


「そ、そうですね」

 正しくはやる気がないのではなく、常識がないのだろうけど。


「でも、それは今に始まったことじゃなくないですか?」

 むちゃくちゃな解決案が出されることは、もはや伝統。

 ノープロ部の味と言ってもいいはずだ。


「そうだけど、今年になってからは特に酷いと噂でさ。騒ぎの火種になることもあるし」

「火種って。最終的にどう行動するかは相談者が選択したことですし」

「それもそうなんだけどね。でも職員室じゃ、君達は悪魔の世代とまで呼ばれているよ」

 何だその強そうな集団は……と言うかおい教師、それが生徒に対する認識の仕方か?


「ま、正直僕は生徒を強制的に入部させることに反対だから、君達が適当な部に入り適当な活動をしてることを悪いとは思わない。だからこれまで特に注意もしてこなかった」

 だけど僕にも立場って物がある、と先生。


「職員室に居辛いんだよねぇ……」

 先生は溜息をつきその場にしゃがみこんでしまった。

 どうやらそれが本音らしい。


「君達が妙な回答を出すたび先生方から白い目で見られてさぁ。今日なんて校長に、いい加減にしないと最悪部活解散もあるよって脅されたし」

「解散って、マジですか」

「うん。そうなったら君達も困るだろう?」

 どうだろう……俺を含め、あの部に執着する部員は一人もいなさそうだけど。


「まあそういうことだからさ、もう少しまじめにやってね」

「わ、分かりました。これからは気を付けます」



 ◆◇◆



「と、そんなことがあったわけだ。だから今回からは少し真面目に回答して欲しい」

 しかし返ってきたのは分かったのか分かってないのかどっちとも付かない生返事。

 それを不安に思いつつ、PCを立ち上げメールソフトを開く。


「それじゃあ今日の相談だけど、今日はスフィンクスの亜人からだ」

 スフィンクスとは、簡単に言えば、頭が人間で体がライオンと言った形態をした種族の亜人だ。

 体がライオンと言っても、四足歩行ではなく二足歩行で生活をしている。


「タイトルは『どうすれば控えられるか』だと」

 続けて本文を読み上げていく。


 【我々スフィンクスの亜人は、人と会話をしているときに突然くだらない問題を出してしまいます。種族的にそういう性格なのですが、これをどうにかして控えたいです。と言うのも、最初はくだらない問題でも、出題すると面白いと皆に喜ばれていたのですが、最近は面倒臭いと煙たがられているのです。このままでは友達がいなくなってしまいます、なので何かいい方法はないでしょうか。】


「って書いてあるけど、何なんだ? 性格的に突然問題を出してしまうって……」

「そういう種族性だな。人間界で言うところの、民族性みたいなものだ」

 俺の疑問に答えたのは、キュートだった。


「他の種族の亜人にもそれぞれ性質があるのは知っているだろう?」

「スキュラは凶暴とかメリュジーヌは臆病みたいなやつか?」

「そうだ。それと同じようなものだ」

 いや、それらと同列に扱っていいものなのだろうか。

 まあでも変態的発言をしてしまうセイレーンみたいな種族もいるわけだから、突然問題を出してしまうような種族がいても不思議ではないのか。


「と言うか何で今更こんな相談なんだ。魔界では嫌がられていなかったのか? それとも何か対処法があったとか?」

「後者だな。魔界でもスフィンクス達が突然問題を出してくることに対して不満を持つものは多かった。しかしな、魔界には魔法がある。聞きたくない言葉は咄嗟にシャットダウンできたのだ」

 そういうことか。魔界では魔法が使えたからどうにかなっていたが、人間界に来てそれが使えなくなり問題が出始めた。これは亜人が持つ悩みの中で、最もよくある構造だ。

 しかしこういう話を聞くといつも思うけど、本当魔法って便利だよなぁ……。

 今回の魔法の使い方に関しては人間関係に角が立ちそうだけど。


「正直我としても知りたいな、あいつらをどうすれば黙らせられるのか」

「じゃあ今回の案は自分達のためにもなると思って考えてみてくれ」

 俺の言葉を受け、各々が楽な姿勢をとり黙考し始めた。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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