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モンスター娘@問題があーる!  作者: 高辺 ヒロ
3.ヴァンパイア
13/35

3-3

 開けられた扉の向こう側には、カバンを肩に提げた真っ赤なボブヘアの女生徒が立っていた。


「ふっ、間に合ったか」

 俺を一瞥しそんなことを呟いた彼女はキュート、ノープロ部の部員の一人である。


「いや全然間に合ってないからなキュート、とんだ重役出勤だ」

「ジューヤクシュッキン? 貴様それは違うぞ。こういうときはこう言うのだ。グーテンモルゲン」

「おはようってだから早くないんだって! めちゃくちゃ遅刻だって!」

 しかもその二つあまり似てないし……。


「だが来ないよりはマシだろう?」

 彼女は余裕の足取りで入室し、空いている席の一つに腰を下ろした。

 その態度からは遅刻したことに対する罪悪感など一切窺えず、もちろん謝罪の言葉などもない。どこまでも不遜で横柄。

 ただそのことに不自然さを感じられないのが不思議だ。重役っぷりが板に付いているとでも言うのだろうか、そういうオーラーを彼女は纏っている。


「それはそうだけど、どうせ来てくれるなら早く来て欲しかったよ」

「まあそう言うな、教室で国語の勉強をしていたのだ」

「はあ? 今国語の勉強と言ったか」

 他のバカ共とは違う頭のいいキュートらしい遅刻理由ではあるが、そんなことをしていたわりには重役出勤がカタカナ発音だったし、二年先輩である俺に対して敬語も使えていないじゃないか。


「うむ、ことわざや四字熟語に興味を持ってな。丁度それらに詳しいという友人がいたので、教えてもらっている」

「その前に俺が敬語や謙譲語や丁寧語というものを教えてやろうか?」

 もう俺やこの部の先輩に対してタメ口なのはいいとして、さすがにその他の先輩や先生方には、立場を考えた言葉遣いをして欲しい。


「そんなに言葉遣いを正したいのか。仕方がない、ならばこれからは貴様のことは貴様ではなく様をつけて呼んでやろう。グーテンモルゲンあんご様。これでいいか?」

「よくない。丁度いいから教えてやる、そういうのを四字熟語で慇懃無礼って言うんだ」

「シャイニングレイ? さながら太陽の光と言ったところか」

「お前はそんないいもんじゃねえよ!」

 大体どうすればそんな風に聞こえるんだまったく。

 賢いと言っても勉強ができるというだけで、結局発言内容は他のバカ共と変わらない。

 と言うかなまじ賢い分、他のバカ共より性質が悪い。


「そんなことよりどうだあんご様、覚えたての言葉を披露して差し上げてやろうか?」

 差し上げてやろうかって……しかも様付けは固定化されたのか。


「いいよ別に。それより案を披露してくれ」

「つまらん男だですな。まあいい、ならば今日の相談内容を教えろ」

 もうなんか無茶苦茶だよ……。


「分かったよ。今日の相談内容は――」

「いやちょっと待った、その前に小腹がすいたので食事にする」

「はあ、今からか?」

「そうだ。『腹が減っては戦がペキン』と言うだろう?」

 言って、キュートは下半身から生える触手を使い、床に広がるハッピーのお菓子を二、三個拾い上げ、そしてそれを口ではなく、制服の中へと突っ込んだ。

 ほどなくして服の中から聞こえる、バリバリという豪快な咀嚼音。


「何度見てもお前の食事は衝撃的だな……」

 キュート。彼女も魔界から人間界へとやってきた亜人だ。

 種族はスキュラ。下半身に十二本の蛸のものに似た触手を生やし、腹部に鋭い牙の付いた六つの口を持つ種族。

 元はとある島に住む、水浴びが好きな美しい姿の妖精達だった。

 しかしある日魔女に呪いをかけられ、種族全体が今のような姿となってしまう。

 以来変わり果てた姿に悲しみ怒り狂ったスキュラ達は、凶暴化し、縄張りにしている島の近くを航海する船を襲っては乗組員を食い殺す化け物となった。

 これが人間界に残るスキュラの伝説。なのだがこれもフィクション。

 スキュラは呪いをかけられるまでもなく先祖代々この姿だし、船を襲い人を食い殺すなんてこともしていないらしい。


「おいキュートてめえ、何でワタシのお菓子勝手に食ってんだよ!」

「貴様の? 知らんな。我は床に落ちていたものを偶然拾っただけだ」

「落ちてたんじゃねえ置いてたんだ! 返せ!」

「そんなことは無理に決まっているだろう。それとも嘔吐しろとでも言うのか?」

「だから落としてない! 置いてたんだ!」

「いや、落としたうんぬんではなく嘔吐と言ったのだが。まったく、話にならんな」

「それはこっちのセリフだ! 返さねえって言うなら今日こそその蛸足食ってやる!」

「いいだろう返り討ちにしてやる。さあ、ここから動かずにいてやるからかかって来い」


 ただ凶暴という部分は当たらずも遠からずというイメージがある。

 凶暴と言うと少し言い過ぎかもしれないが、スキュラは種族全体的にみて他人を敬うということをあまりしない。

 へつらうことなどもちろんのこと、同調したりすることもそうだ。

 なので他人と頻繁に衝突する。

 そしていざ喧嘩となるとその手数の多さからまず負けることはなく、更に牙のせいで相手に怪我を負わせがち。

 これらが原因で、そんなイメージが付いてしまったのだろう。


「ただしハッピーよ、歩いてかかって来るのだぞ? まあ走ってもいいが、とりあえず飛ぶな。いいな?」

「ん? よく分からねえけど別にいいぞ、ハンデが欲しいならくれてやるっ」

 ハッピーは床を蹴った。そして一気にキュートへと歩を進める。一、二、三。


「あれーワタシ何してたんだっけ?」

「はっはっはっはかかったなバカめ! 己が鳥頭だということすら忘却の彼方か!?」

 どうやらハッピーは三歩歩いたことにより直前の記憶をなくしてしまったらしい……。

 それを見て普段ポーカーフェイスのキュートが珍しく感情を表に出す。


「しかし鳥頭とはここまでなのか? まるで魔法ではないか。ま、これで一件落着だが」

「いやおいキュート、ハッピーは一応お前の先輩なんだぞ? もう少し丁寧に扱えよ」

 敬語を使わないくらいならまだしも……なんて可哀想なハッピー……。


「それこそ知らぬな。これは事あるごとに我の足を啄ばんでくるこの鳥に対する仕返しだ。いやお返しと言った方がいいのか? お菓子だけに」

「どっちでもいいけど。それより腹ごしらえも終わったんだし、部活の方よろしく」

「部活部活とうるさい男だな。そもそもなぜ我が悩み相談などをしないといけないのだ」

「知るか。理由は何であれ自分でこの部に入ると決めたはずだろ? 文句は自分に言え」


 ただそんなことは知らないが、なぜどの部にも所属したくない生徒が集まりできたこの部が、悩み相談などという活動を始めたのかは知っている。

 発足当初こそ部活をしたくない生徒達の避難場所として機能していたノープロ部だったが、やがて活動実体のないペーパークラブだということが教師陣にバレたのだ。

 そして何か活動をしなければならなくなった。

 そこで教師達から、ノープロ部はせっかく問題ないという名前の部なのだから、学校の問題をなくす活動をしてはどうかと提案があったのだとか。

 そうして今日にまで至るわけだけど……『部活に入らなくても別に問題ないじゃないか!』という訴えを込めて付けた部名が、まさか部活を始めるきっかけとなってしまったとは何とも皮肉な話だ。


 にしてもこの話を思い出すたびにいつも考えるのだけど、生徒に部活を強制させるのは、学校のルールとしてありなのだろうか。

 いつだったか風邪で休んだときにお昼のワイドショーで見たことがある。

 部活問題。ブラック企業ならぬブラック部活だったか。

 そのときは生徒に休みが一切なかったり、教師が無賃労働をさせられていることが問題に挙げられていたが、強制入部、これも結構な問題だと思うのだけど。

 どうしてこんなルールがこの学校ではまかり通っているのだろうか。不思議だ。


「やれやれまあいいだろう。それで、今日の相談は何なのだ?」

 俺がそんなことを考えているうちにようやく腹をくくったようだったので、キュートに今日の相談者はバンパイアだということと、その相談の内容は、『どうすれば傷を付けずに血を吸えるか』だということを伝えた。


「ふむなるほどな。だが我の案を発表するより先にだ、他の二人が出した案を聞かせろ。かぶってしまっては意味あるまい?」

「え、あー確かにな。でも何と言えばいいのか、いまいちいい案が出なかったと言うか」

 まともな案が出なかったと言うか、絶対に他人とかぶらないであろう異常な案しか出なかったと言うか。


「とにかく、話せることは何一つない」

「はっ、では貴様らは今まで何をしていたのだ? これぞ『下手の考え休むねパタリ』というやつだな」

「休むねパタリって。なあ、さっきから気になってたんだけど、お前の使うことわざ何だかおかしくないか?」

「おかしいだと?」

「ペキンだとかパタリだとか。ことわざはそんな可愛い感じのものじゃないだろ」

 正しくは『戦がペキン』じゃなくて『戦はできん』だし、『休むねパタリ』じゃなくて『休むに似たり』だ。

 確かに腹が減っていては戦はペキンと折れてしまうかもしれないし、休むときはパタリと倒れこむかもしれないけど。


「そうなのか? 我が教わったことわざはどれも可愛らしかったが」

 どれも可愛らしかったって、コイツは本当にことわざや四字熟語の勉強してきたのか?

 まさか遅刻の理由を適当にでっち上げただけなんじゃ。

 俺がいぶかしんだのを感じ取ったのか、聞かせてやろうとか? とキュート。


「まずはこれだ、『早起きは専門のボク』」

「ボクって誰だよ」


「次に、『石橋を叩いたワタル』」

「唐突に出てきたワタル! まさか早起き専門のボクか!?」


「そして、『石の上にも居んねん』」

「ワタルか!? ワタルがか!?」


「それから、『馬鹿なワタル薬がない(笑)』」

「貸してやれ? ちょっとでもいいから貸してやれ?」


「も一つおまけに、『下手な鉄砲を数打つワタル(笑)』」

「さっきからワタルへの当たりが強い!」

「とまあこんな具合だな」

 そんな、物知りだろう? と言わんばかりにドヤ顔をされても。

 どれも間違いだし、可愛らしくもない。ただただ可哀想だ。ワタルが。

 しかし一体誰なんだ、キュートにこんなでたらめを教えたのは。


「まだまだあるぞ? 『嘘がばれたマコト(笑)』とか」

 ワタルの次はマコトか……。


「もういい、もういいから。『傷を付けずに血を吸う方法』を考えてくれ」

 ことわざについては、今度正しいものを教えてあげよう。

読んでくださってありがとうございました。

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