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2-幕間

 果たして『高いところに行く』などという案を出した結果、ドワーフの生徒達がどうなったかと言うと――。

 ドワーフからの相談に返信のメールを送ってから数日後の昼。

 俺は昼食を食べ終えた後、学校の中庭にある自販機へと飲み物を買いに出た。


「あらあんごさん、ごきげんどう?」

 どれにしようか品定めをしていると、頭上から聞き覚えのある声が落ちてくる。

 見上げてみると、そこにいたのは橙色の髪をお団子にし、そこからドリルをはやすという奇抜な髪型をしたお嬢様、アネモネ。

 どうやら蜘蛛の糸と校舎の壁をうまく使って、屋上から下降してきたようだ。


「おおアネモネ。俺は満腹で眠たくなってきたかな。お前は?」

「ごきげんです」

 ごきげんらしかった。


「にしてもお前はいつも屋上にいるよな。好きなのか? あの場所」

「あの場所が好きと言うより、わたくしは高いところが好きなのです」

「なるほど、バカと煙は高いところが好きって言うもんな」

 アネモネが高いところを好きなのも、むべなるかな。


「バラと煙? まあまああんごさんったらお上手ですこと、わたくしをバラに例えるだなんて。まさかわたくしに惚れていらっしゃるので?」

「全然惚れていないけど?」

 そのポジティブさには惚れ惚れせざるを得ないけど。


「まあそうであっても仕方がありませんわ、わたくしはこんなにも美しいのですから。しかしお気を付けなさってあんごさん。美しい花にはトゲがあるよう、美しいわたくしにもトゲがありますから」

「トゲ? お前トゲなんて持ってるのか」

「ええ。正確にはトゲではなく、毛ですけど」

 そう言いながらアネモネは、手の平で俺の首筋を優しくなでた。


「――――っ!?」

 直後、彼女が触れた部分に激しい痒みが訪れる。

 それも、かきむしる衝動を自力で抑えられないほど強力な痒みが。


「ちょ、おい、お前! 一体俺に何をした!?」

「わたくしの体に生えているこの毛の中には、一部人体に強い痒みをもたらす毒を含んでいるものがありますの。それをちょっと」

「それをちょっと、じゃねえ! なぜわざわざ俺の体にそれを付けた!」

「危険を察知したからですの。『バラのようだ』などと言って、あんごさんわたくしを口説いたではありませんか」

「口説いてなんていないんですけど……」

 それは全て、お前の勝手な妄想だ。


「まさかあんごさんに口説かれるだなんて思いもしておりませんでしたから。驚いてついついハンムラビ法典を適用してしまいましたの」

「ハ、ハンムラビ法典?」

「目には目を、歯には歯を、わたくしを口説く奴にはには毒を」

「いやいや後半おかしいだろ、勝手に改変するんじゃねえよ。バビロンの王かお前は」

「そうですけれど」

「そうなの!?」

「ええ、『バーとビルとサロンのオーナー』略して『バビロンの王』ですの」

「略し方が斬新すぎるよ!」

 それにそれじゃあ『バビロンの王』じゃなくて『バビロンのオー』だよ!

 何かちょっと間抜けだよ!

 まったく……変な略語ばかり作り出しやがって。


「しっかしそれにしても本当に痒いんだけど、何とかしてくれよ」

「ご安心なさってあんごさん。毒と言っても痒みが生じるだけですし、しばらく放置していれば治りますから」

「早急な対処法はないのかよ」

「おほほのほ、ございません。そんなことより高いところで思い出したのですけど、ドワーフの生徒さん達はどうなったのでしょう」

「ん? あああれな。あれは何と言うか、まあ、解決したみたいだ」

 会話をしていれば少しでもかきむしりたい衝動を紛らわせられるだろうと考え、俺はアネモネに向き直った。


「同じクラスのドワーフの奴に聞いたんだけどな――」

 『高いところに行く』と言われても意味が分からずどうしようかとドワーフ仲間で話し合っていたところ、日本で高い所と言えば富士山だみたいな会話になり、最終的になぜか富士登山をすることになったのだとか。

 だが彼らは山頂には辿り着けなかった。先を急ぎすぎるあまり、いわゆる弾丸登山を行った彼らは、途中で次々と体調を崩し動けなくなってしまったのだ。

 幸い何とか救助要請をし、山岳救助隊により全員無事怪我なく下山はできた。

 しかし後にドワーフ達は、助けてもらった救助隊、現場に駆けつけた教師や親など、多方面からきつく叱られてしまったらしい。

 そうして多くの人に心配と迷惑をかけてしまったことを痛感した彼らはこう思ったのだと言う。

 『身長の小ささなどで悩んでいる自分達の心こそが小さい。これから身長ではなく、精神的に大きくなれるよう努力しよう』


「それでもう悩みはなくなったということですの? それはよかったですわね」

「どうなんだろうな。正しくは悩みがなくなったんじゃなく、悩むのをやめただけだし」

 まあドワーフ達が自ら選択したことだ、これ以上外部の人間が口を挟むべきではない。

 それに形はどうであれ、ドワーフ達の悩みが消えたことに変わりはないのだから、これはこれでよかったのだろう。

 ただよくないことが一つ。

 ドワーフ達の悩みは消えたようだったが、俺の首の痒みが消えない。

 とりあえず自販機で冷たい飲み物を買い、患部を冷やしてみるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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