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モンスター娘@問題があーる!  作者: 高辺 ヒロ
1.アルラウネ
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1-1

 校舎にチャイムの音が響き渡る。

 今日も今日とて、ノープロ部の活動の始まりだ。


「点呼をとるから席に着いてくれ」

 俺がそう声をかけると、それまで宙を漂っていた少女は、間の延びた返事と共に椅子に腰を下ろした。

 そしてその流れでなぜか、俺の下半身へと手を伸ばす。


「おいセレナ、どうしてそんなところに手を伸ばす?」

「どうしてって、あんご先輩が言ったんじゃないですか」

「俺が? 何て?」

「チンコを取るから位置に着けって」

「チンコじゃなくて点呼だよ!」

 確かにちょっと、いやかなり似てるけども!


「点呼? あー点呼ですか、なーんだ残念……」

「残念って。そういう女の子っぽくない発言は控えろっていつも言ってるだろ?」

 俺と同じくこの私立紺成高校ノープロ部に所属する、一年生のセレナ。

 青く波打つ長い髪を先端の方で一本に結った彼女は、年齢と比べて大人っぽく綺麗な見た目をした、文句なしの美少女だ。

 しかし中身は年齢に見合わず子どもっぽく、そのくせ耳だけは年増で性的な言葉が大好きときている。ようは、残念美少女。


「じゃあ聞きますけど、女の子っぽい発言っていうのはどんなのなんですか?」

「うーん。女の子ならさ、人前で『ちん』って言ってしまっただけでも慌てて顔を赤らめるものなんじゃないのか?」

「『ちん』で顔を赤らめる……なるほどつまりこういうことですねっ」

 分っかりました、とセレナは一つ手を打つ。


「ちん……ぽっ」

「そういうことでもない!」

 なぜわざわざ頬を赤らめたときの擬音を口に出した!?


「でもでも、そうなってくると先輩の名前も呼べなくなりますね」

「どうしてだ?」

「だって先輩の名前、ちんごですし」

「ちんごじゃないあんご。俺は日馬按悟ひうまあんごだ」

「ちん……ごっ」

「セレナ!」

 にっしっしと、俺の反応を見て嬉しそうにはしゃぐ彼女。

 下ネタを言っているときのコイツは本当に楽しそうで、俺がどれだけ注意したところで聞きやしないどころか、ツッコめばツッコむほど余計に調子に乗っていく。

 本気でやめさせようとするならば、スルーするのが一番効果的なのだろう。

 頭では分かっている。しかし彼女の声の前では、それはなかなか容易ではないのだ。


「はぁ……」

「あ、あんご先輩、溜息をつくのはよくないですよ? 幸せが逃げます。どうせつくなら、女の子のお尻をつきましょう。とっても幸せになれますよ」

「ホントにお前はなあ」

「まあまあそんなに怒らないでくださいよ。仕方ないじゃないですか。これがわたしの、亜人としての本能なんですから」

 一ミリも反省したそぶりを見せることなく、セレナは歯を見せ肩を揺らす。


「亜人の本能ねえ、そう言われるともうどうしようもないけどさ」

 亜人とは、俺達人間が暮らす人間界とは別の世界、異世界に暮らす人々の総称だ。

 彼らは基本的に人間に似た姿形をしてはいるのだが、体の内外に人間とは異なった性質を持っている。

 人間界と異世界との戦争が終結し、両者が友好的な関係を築き始めて早半世紀。

 そんな彼らが人間界へと移住してくることも多くなった。セレナもその中の一人だ。

 ゆえに彼女にも、俺達人間にはない特徴がたくさんある。


「確かお前は、亜人の中でもセイレーンって種族に分類されるんだったよな」

 セイレーン。人間界に存在する神話にもよく描かれる、海に住む怪物だ。

 伝説によると、彼女らは航海中の船に乗る人々を美しい声で惑わし難破させ、最終的には食うとされている。

 しかしこれは戦時下だったからこそ悪く描かれただけで、実際には、気に入った人を美しい声で惑わしナンパを成功させ、最終的には性的な意味で食う。

 そんな、無害なのか有害なのか判断し辛い本能を持った生き物なのである。

 その本能のせいで、セレナも変態的な発言ばかりしてしまうらしい。


「まったく、名前のわりに清廉さの欠片もないよなセイレーンって」

 別に清廉な生き物だからセイレーンと名付けられたわけではないだろうけど。


「もういっそのこと改名した方がいいんじゃないのか?」

「改名ですか、いいですね。なら今日からわたしは、種族『インラーン』を名乗ります」

 言って、これまた嬉しそうに自分の下半身を俺の足に叩きつけてくる。

 セイレーンの、本能以外の亜人的特徴といってまず目につくのは、この下半身だろう。

 日の光を反射して輝く鱗、絹のようにしなやかな尾鰭。

 グレーのプリーツスカートから伸びるセレナの下半身は、完全に魚だ。

 それは下半身だけではなく、今は制服を着ていて見えないが、腹部側面にも魚類と同じくエラがあり水中での呼吸が可能だ。

 その他にも人を引き付ける力を持った声を有していたり、翼がないのに飛行が可能だったりと、正直どれをとっても驚きな特徴ばかりだが、亜人とは基本的にこんな感じの不思議生物のようだ。


「と、そんなことより点呼だ点呼、点呼をとるぞ」

 そう思ったものの、すぐにその必要はないかと考えを改める。

 部室棟二階の最奥。古びたデスクトップPCが一台設置されている以外特徴がなく、元々何のための部屋だったのか分からないこの場所に存在する人影は、俺を含めて二つだけ。

 無駄に並べられた勉強机と椅子は西日に照らされるばかりで、何とも虚しい。


「あれ、あんご先輩、点呼とらないんですか?」

「いや、もういい。俺とお前しかいないのは一目瞭然だし」

 この部の部員は一年から三年合わせて、全部で六名。つまり現在欠席が四名。

 本当なら絶対出席しなければならないのだけど、この部は顧問が全くと言っていいほど顔を出さず、欠席しようがばれる可能性が極めて低いので、こういう日はよくあるのだ。

 まあ別にどうしても点呼をしなければならないわけでもない、部長として、数少ない仕事の一つくらいきちんとやっておこうと思っただけだ。


「時間短縮、ちゃっちゃと本題に入ろう」

 人間界と異世界が友好的な関係を持ち始め、異世界に住む亜人が人間界へやってくることも多くなった。それはとてもよいことだろう。

 しかし人間に似た姿形をしていながら、それでいて人間とは違う性質を有している亜人が、精神的にも物理的にも彼らの多種多様な形態に対応しきれていない人間界で暮らすには不便なことが多い。

 当然人間界の学校に通う亜人の生徒も、悩みや問題をたくさん抱えている。

 その悩みや問題についての解決法を、話し合いにより導き出す。

 それが、ノープロ部の主な活動内容だ。


「さて、今日の相談はどんなのかな……」

 俺は日に当たり一部変色してしまったPCを操作し、メールソフトを立ち上げる。

 そしてノープロ部宛てに届いた、相談メールを開いた。


「今日は、アルラウネの亜人からの相談だな」

 アルラウネとは、簡単に言えば、上半身が人間で下半身が花という形態をした種族の亜人だ。彼女達の種族には、女性しか存在しない。


「タイトルは『どうすれば迷惑をかけずに済むか』だ」

 俺はセレナに聞こえるよう、メールの本文を声に出して読み上げていく。

 部長としての数少ない仕事の二つ目にして、主な仕事。司会進行だ。



 【我々アルラウネは下半身が花という形態をしているのですが、その花には当然おしべがあって、中には花粉があります。その花粉が、移動した際のわずかな風でさえ飛んでしまうのです。現在季節は春。生成される花粉の量はピークに達し、そのせいで周りの花粉症を患っている生徒に大変煙たがられています。しかし飛沫を押さえようにも、花粉は己の意志と関係なく自然に作られ自然に飛んでしまい不可能です。どうにかして迷惑をかけないようにしたいのですが、どうすればいいでしょう。】



「とのことだけど。アルラウネに近付いたらやたら鼻の調子が悪くなると思ってたけど、あれは花粉のせいだったのか」

 今まで不思議に思っていたのだが、ようやく理由が判明した。


「カフンショー? 何ですかそれ、カンチョーとはどういう関係があるんでしょう」

「残念ながらカンチョーとはどんな関係もない」

 花粉によって引き起こされるアレルギー反応のことだ、と説明をしてやる。

 が、セレナは分かっているのかいないのか微妙な反応を見せた。


「春になると普段より目とか鼻とかがムズムズする、そんな経験はないか?」

「ないですかね。夜になると下半身がムラムラする、そんな経験ならありますけど」

 どうやら彼女は花粉症患者ではないらしい。

 その代わり違う病気ではあるようだが。


「でも理解はしました。つまりアルラウネの出す花粉が、病気の原因になってるってことでいいんでしょう?」

 本人達が意図していないことなのでそんな言い方をするのは正直悪いが、その認識で概ね間違いではないと考え、俺は首肯した。


「どうにかして花粉の生成、それか飛散を食い止めないと。ちなみに聞くけど、異世界ではその辺どうなってたんだ?」

 当然異世界にいた頃にも、現在と同じようにアルラウネの体から花粉は作られ、空気中に舞っていたことだろう。

 果たして今まではどんな風に対策がなされていたのか。

 しかしセレナは俺の質問に、知らないと首を横に振った。


「だってそもそも、異世界に花粉症なんて病気なかったですし」

 そんな言葉十六年間生きてきて初めて聞きました、と彼女。

 それはつまり、そもそも亜人は花粉症にならないということか?

 と言うかそもそもと言うならばだ。そもそも異世界で何かしらの対策が講じられていたのならば、わざわざ俺達に相談してくるはずがないのだ。

 とすると、セレナの言うとおり異世界で花粉症という病気はなく、この問題は人間界に来て初めて浮上したと考えるべきか。


「よし、じゃあ異世界でのことは置いておいて、『どうすれば花粉で迷惑をかけなくて済むか』考えてみてくれ」

 俺の言葉に返事をし、セレナは黙考し始めた。

読んでいただきありがとうございました。

今日中にもう一話、または数話投稿する予定です。

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