残燭
翌朝。
「気分はどうだ?」
食事を持って部屋に入ると、レィスアルは私のほうをちらりと見て、すぐにそっぽを向いた。
「ラルム……あなた、無事だったの」
「ああ、思っていたより丈夫な体らしい」
サイドテーブルに、一切れのパンとスープ、一杯の水を置く。
レィスアルはまだ、こちらを見ようとしない。無理もない。彼女は私との再会を決して望んではいなかっただろう。しかも私に助けられる形でなど、プライドの高い彼女にとっては屈辱以外の何者でもなかったに違いない。
「あなたのお友達はどうしたの?」
「ダルフェイなら食料の調達に行った」
互いに目を合わせぬまま、会話を続ける。
「彼はあなたの何? まさか、恋人だなんていうんじゃないでしょうね」
「そのとおりだ」
「なんですって?」
私の答えに、レィスアルが信じられないという表情で私を見た。どこか嫌悪と非難のこもったようなその目を、私はまっすぐに見つめ返した。
「あれはオーガじゃないの!」
レィスアルが捲くし立てるように叫んだ。
「昨日あたしとあなたを襲った、薄汚いモンスターの仲間だわッ」
「だが、望んでその血を引いたわけではない」
「……ハーフオーグルなの?」
「そうだ」
その返答に、レィスアルは納得したように頷いた。
「そう、混血同士というわけね。所詮どちらにもなりきれない半端もの同士、お似合いかもしれないわね」
皮肉げな彼女の微笑みに私は答えず、彼女に背を向ける。
「怒ったの? あたしも化け物にお世話されるなんてごめんだわ。あたしのことが憎いでしょう? さっさと殺したらどうなのよ!」
「……その足が癒えるまでには数ヶ月かかる。その間、ゆっくりと始末のつけ方を考えさせてもらおう」
閉めた扉にグラスが投げつけられ、床に落ちて砕け散る音がした。
ついで押し殺したような啜り泣きが聞こえてくる。
思えば、何故彼女はあの時あんな場所にいたのだろう。
供の一人も連れず、いかに生粋のエルフとはいえ、女性一人でうろつくのは危険な場所なのに。
ふと、子供の頃の思い出が胸を掠めた。
たくさんの取り巻きに囲まれ、いつも女王のように振舞っていたレィスアル。
その面影が、今の彼女にはどこにもない……。
そういえばあの悪夢の日、エルフの里に戻った彼女とその仲間たちはその後どうしたのだろう。
今まで考えもしなかったが、私のことはともかく、アムレを殺しておいて何事もなく済んだはずがない。
私はもう一度部屋の中に入ろうとドアノブを握り、しかし思い直してその場をあとにした。
それを聞くのは、もう少しあとになってからでいい。
まだ時間はたっぷりあるのだから……。




