黎明
その夜、私は初めてダルフェイに抱かれた。
裸身を晒すことにも……自らの女性を意識することにもまだ何処か抵抗があったが、彼の求めを、私は全て受け入れようと思った。彼ならば、私の戸惑いも苦悩も全て包んでくれる……そんな、不確かだが絶対の確信があったから。
ダルフェイに対し、私の持つ女性を意識せずに、ただずっと傍にいて欲しいなどと願うのは……いつか、無理が来ることは感じていた。だが、たまたま両性具有であっただけで、たとえもし私が男だったとしても……彼はきっと私を愛してくれただろう。また普通の女であっても、同じように彼は私を求めてくれたはずだ。私は私――彼の中では、それだけが事実であり、そういう男であるからこそ、私は彼のために彼の求める半身でありたいと思った。
彼の存在に癒されている……そう確かに感じる一方で、しかし、いやだからこそ、無垢なまま彼に身をゆだねることの出来なかった自分が悔しかった。
あとからあとから溢れて止まらない……この涙の意味はなんだろう?
様々な思いに、私は乱れ、混乱し……そして、いつしか何も考えることが出来なくなっていた。
彼の吐息も、拙い愛撫も、重なり合う鼓動も、何もかもが愛しい。
押し開かれた体の奥に激しく打ちつけられる灼熱に、体の全てが溶かされてしまうようだった。
まるで眩しい閃光のように。真っ白に弾ける意識の中で、過去に受けた苦い思い出がみな1つの光に解け崩れ、消え去ってゆく。
光の波に飲まれそうになり、私は必死で手を伸ばして何かを掻き抱いた。
溺れてしまう――。
恐怖にも似た感覚に身を震わせたとき、ふと、誰かが私の頬に触れた。
かたく閉ざしていたまぶたを、微かに開く。
ぼんやりと霞む視界の中にダルフェイがいた。優しい眼差し、優しい口づけ……。
「ダ…ル……」
力強い腕が、私を抱きしめる。
もう、私には何もわからなかった。
そこにダルフェイがいるのだということ以外、何も――。
いつもと変わらないはずの朝。
冷たい晩秋の風が肌に心地よい。
バルコニーに出て湖をながめていた私は、ふと、朝日を弾いて輝く左手を見た。
そこには、銀の指輪があった。
ダルフェイの母親の形見だというそれは、彼の父が妻に贈った結婚指輪だったらしい。
小さな青いガラス玉のついた安物の指輪だが、それでも、こんなにも輝いている……。
二人の子である証にと、別れ際に父から手渡されたというそれを、ダルフェイは私にくれた。
これで、ラルムにも父さんができるよ――。
そう、嬉しそうに笑って。
くだらない……そう、思ったはずの胸が熱い。
私は変わってしまった。
以前より臆病に……しかし、ずっと強くなった気がする。
「ラルム、お茶を飲むかい?」
家の中から、ダルフェイがたずねる声がした。
「貰おう」
振り返ってそう答え、私は、もう一度湖に目をやった。
美しい……青きサルマキス。
きっとこれからも、静かに私たちを見守ってくれるだろう。
いつまでも変わらず……永遠に。
これで完結です。
二人のその後が知りたい方がいましたら第二章(完結編)をどうぞ。
ラルムの過去ももう少し詳しくわかります。




