表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サルマキスの淵  作者: レエ
第一章
11/28

黎明

 その夜、私は初めてダルフェイに抱かれた。

 裸身を晒すことにも……自らの女性を意識することにもまだ何処か抵抗があったが、彼の求めを、私は全て受け入れようと思った。彼ならば、私の戸惑いも苦悩も全て包んでくれる……そんな、不確かだが絶対の確信があったから。


 ダルフェイに対し、私の持つ女性を意識せずに、ただずっと傍にいて欲しいなどと願うのは……いつか、無理が来ることは感じていた。だが、たまたま両性具有であっただけで、たとえもし私が男だったとしても……彼はきっと私を愛してくれただろう。また普通の女であっても、同じように彼は私を求めてくれたはずだ。私は私――彼の中では、それだけが事実であり、そういう男であるからこそ、私は彼のために彼の求める半身でありたいと思った。


 彼の存在に癒されている……そう確かに感じる一方で、しかし、いやだからこそ、無垢(むく)なまま彼に身をゆだねることの出来なかった自分が悔しかった。

 あとからあとから溢れて止まらない……この涙の意味はなんだろう?


 様々な思いに、私は乱れ、混乱し……そして、いつしか何も考えることが出来なくなっていた。

 彼の吐息も、拙い愛撫も、重なり合う鼓動も、何もかもが愛しい。

 押し開かれた体の奥に激しく打ちつけられる灼熱に、体の全てが溶かされてしまうようだった。


 まるで眩しい閃光のように。真っ白に弾ける意識の中で、過去に受けた苦い思い出がみな1つの光に解け崩れ、消え去ってゆく。

 光の波に飲まれそうになり、私は必死で手を伸ばして何かを掻き抱いた。


 溺れてしまう――。


 恐怖にも似た感覚に身を震わせたとき、ふと、誰かが私の頬に触れた。

 かたく閉ざしていたまぶたを、微かに開く。

 ぼんやりと霞む視界の中にダルフェイがいた。優しい眼差し、優しい口づけ……。


「ダ…ル……」


 力強い腕が、私を抱きしめる。

 もう、私には何もわからなかった。

 そこにダルフェイがいるのだということ以外、何も――。



 いつもと変わらないはずの朝。

 冷たい晩秋(ばんしゅう)の風が肌に心地よい。

 バルコニーに出て湖をながめていた私は、ふと、朝日を弾いて輝く左手を見た。


 そこには、銀の指輪があった。

 ダルフェイの母親の形見だというそれは、彼の父が妻に贈った結婚指輪だったらしい。

 小さな青いガラス玉のついた安物の指輪だが、それでも、こんなにも輝いている……。

 二人の子である証にと、別れ際に父から手渡されたというそれを、ダルフェイは私にくれた。


 これで、ラルムにも父さんができるよ――。


 そう、嬉しそうに笑って。

 くだらない……そう、思ったはずの胸が熱い。

 私は変わってしまった。

 以前より臆病(おくびょう)に……しかし、ずっと強くなった気がする。


「ラルム、お茶を飲むかい?」


 家の中から、ダルフェイがたずねる声がした。


「貰おう」


 振り返ってそう答え、私は、もう一度湖に目をやった。

 美しい……青きサルマキス。

 きっとこれからも、静かに私たちを見守ってくれるだろう。


 いつまでも変わらず……永遠に。

これで完結です。

二人のその後が知りたい方がいましたら第二章(完結編)をどうぞ。

ラルムの過去ももう少し詳しくわかります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ