盗賊殺しの神殿騎士
縦読み推奨。三人称と一人称の境目が曖昧なので、ノリで読むべし。
―――― 盗賊狩り。
神殿騎士の男が二刀を振るい、次々と現れる盗賊を屠殺していく。二十も斬れば盗賊の士気など簡単に崩壊し、逃げ出す者達が現れる所だが――仲間を斬殺していく男に彼等は何故か怯む様子もなく、それどころか命を投げ出すかのように向かい、そして斬られていった。
盗賊達はその悉くを生命絶たれ、紅い血を大地に吸わせたのは五分とかからなかった。
残党の気配を探り、風のざわめきを聞いて、盗賊を壊滅させたと判断した神殿騎士は二刀を鞘に収めるや否や死体の懐を漁ってチャリチャリと銀貨銅貨を財布袋の中に入れていく。
これではどちらが追い剥ぎやら、と心の中で毒吐くが神殿騎士の男は本気で気に病んでいる訳でも無く、金に貴賎は無いとして遠慮なく懐に仕舞い込んでいった。
稀に大銀貨を持っている盗賊を見ると当たりを引いた気分になれる。
自分を幸せに出来たのだから、盗賊たちにも価値があったのだ。
ナムナムと東の島国風に拝むが、あの世の盗賊どもは中指を立てて怒り狂っていることだろう。良い様だ。
あらかた漁ってみたが、どうやら魔道具持ちは居なかった。有益な効果があれば戦闘時に使う筈。
何処か拠点があるはずだから、もし在るとすればそこだろう。
しかし盗賊稼業なんぞヤクザな生業をしている割に弱い連中だったと神殿騎士は思う。
たった独りの人間に襲いかかるにしては慎重さが足りない。罠だと思うだろう、普通。
足りていないから盗賊稼業に身を窶しているのでは? と思ってはイケナイ。蛮族やるなら、逆にその程度の知能は必須だ。
まぁ返り討ちに逢って財布の足しになった連中のことなど心底どうでも良いので、サクサクっと攻略していこう。男はてくてくと探索を開始していった。
探知技能を使うと雑木林の隙間に洞穴があり、その中に色々と物が置いてあるらしい。
盗賊に捕まった村娘達があられもない姿で息も絶え絶えになっているが、さてどうしたものだろうと男は思案する。
代わる代わる男に犯され、尊厳というものを粉微塵にされた女に生きる気力があるとは到底思えなかったからだ。
いっそ殺してあげた方が楽になれるのではないかとも思うが、会う前から殺害も視野に入れる自分は破戒僧ならぬ暗黒騎士かと溜息が出てきた。
それでも上から目線で慈悲と言い切らないだけマシな部類だとは思うが、評価を下すのは所詮他人だ。自己評価など何の足しにもならない。
一人憂鬱な気分のまま洞穴に入ると、飾り気のない鉄製のインテリアがお出迎えしてくれた。
だがこれらは独り身には重く、持ち運ぶには難儀する。後で馬車を持った目敏い商人に情報を流して金に替えることにしよう。
奥に行くと予想通り裸体に白い液体をぶちまけられた女達が居た。誰も彼も死んだ魚のような眼をしている。そして何より臭いが酷い。
「おい」
男が呼ぶと彼女達はゆるゆると視線を上に向けて、男に諦観の目線を注ぐ。
「今すぐ死にたいと思ってる奴は手を挙げろ。俺が殺してやる」
七人居た女の内、五人が手を挙げた。男は過たずその首を刎ねて殺していく。
これから生きる気力を注ぐなどという労力をつぎ込むつもりはなかった。
死にたいなら殺してやろう。生きたいなら意思を見せろ。これが残酷か救済かは各々が決めれば良い事だと告げるように。
「……これからも辛いことが起きるかもしれない。それでも生きるんだな?」
残った二人の女は涙を浮かべていたが、しっかりと頷いた。
男は財布袋から死体から集めた銀貨銅貨を半分に分けて、女達に渡していく。
何故、という表情を浮かべていたが男はまるで一顧だにせず、女の脚に嵌められていた鉄輪を断ち切る。
「ピュア」
純白の光が男から三メートル一帯を包み、強制的に汚れを浄化していく。
なお精液も汚物の対象に指定したため、受精卵が在ろうがなかろうが問答無用で排除対象だ。
「テメェの人生を背負える奴だけを生かした。それだけだ」
「貴方は……御名前を」
「どの神を信奉して……っ」
「……縋るな。俺の名を識る必要は無い。そして――神の御名と、信仰を理由に他者に接触することは戒律により禁じられている。だからもし、感謝を捧げたければ名も識らない誰かに優しくしてやれ」
「ユグドラシル=ベルの、紋章……」
女達が注ぐ目線の先、男の鎧に刻まれた文様は大樹に鈴が括りつけられた形をしていた。王家が掲げる紋章と同じであり、違いは金ではなく銀で彩られている事だろうか。
それは国教にして宗教に非ず。神の慈悲と意思を人の手で歪めることを嫌った王様が掲げた名も無き自由信仰。その紋章を纏う男は儀礼官を兼任する最高位の騎士。
『汝、神の名と己の信仰を理由に他者に触れることを禁ず』
これは、勇者と呼ばれた異世界転生者が世界に光を齎した果ての物語。




