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旧企画

アンラッキーチョイス

作者: 秋月瑛

 オレは人からこう呼ばれている――世界一ツイてる男と。

 独身バツイチ、子供は別れたカミさんのところにいる。

 そして、しがない探偵………………を目指そうと思っているところだ。

 まだ探偵になると決まったわけじゃない。

 ただちょっとトラブって、警官バッチと銃を課長に預けてるだけさ。

 人は休職だというが、オレは骨休めの休暇だと思っている。

 さっそく昨日からマンションのポストに、片っ端から探偵社の広告を突っ込んでおいた。

 まだ誰からも依頼はないが、そろそろ来そうな予感がする。

 なんたって、オレは世界一ツイてる男だからさ。

 ドンドンドン!

 お、玄関を叩く音だ。ほらな、依頼人が来たぜ。

 ドアを開けてやると、鼻息の荒いオバサンが飛び込んできた。

「あんたかい! こんな広告勝手にポストに入れたのは!!」

「そ、それは……」

「困るんだよね、こういうことしてもらっちゃ。今度やったら警察に言うからね!」

 バタン!!

 ドアを閉めて言いたいことだけ言って帰りやがった。

 ま、こんなこともあるさ。

 ドンドンドン!

 また部屋のドアを叩く音だ。

 今度こそ依頼人だ。

 さっそくドアを開けてやった。

「探偵のご依頼ですか?」

 化粧の濃い中年の女が飛び込んできた。

「ウチのシャルロットちゃんが居なくなったのよ!! 早く、早く見つけてちょうだい!」

 頭に響くキーキー声だ。

「で、奥さん?」

「まだ結婚してないわよ失礼ね!」

「え? では、シャルロットというのは?」

「わたしの子よ!」

 なるほど、シングルマザーというやつか。

「シャルロットの写真か何かありますか?」

「ええ、ここに」

 女がオレに渡した写真は……彼女自身が写っていた。

「いや……あんたの写真じゃなくて」

「なに言ってんのよ、ここにちゃ〜んと写っているでしょ!」

 女が指さしたのは一緒に写っていたデブ猫。

「まさか……シャルロットというのは……この猫ですか?」

「そうよ、早く探してちょうだい!」

 オレは動じない。

 なぜならオレはハードボイルドだからさ。

 こういう時は一服して気持ちを切り替えるに限る。

 オレはポケットに入れていた煙草を……煙草が……ない?

 そうか、煙草は……禁煙中なのだ。決して金がなくて買えないわけじゃないからな。

 まあいい、煙草のためにも……じゃなかった、猫の命のためにも依頼を引き受けよう。

 なぜならオレは動物愛護主義だからさ。

 依頼人の女が眉間にシワを寄せて鼻をクンクンしている。

「なんだか臭わない?」

「金はなくても風呂は毎日入っているが?」

「そうじゃなくて、焦げ臭くない?」

「……アアアァァァッッ!!」

 チキン!

 そうだチキンだ!

 チキンをオーブンに入れっぱなしだった!!

 急いでオーブンを開けると丸焦げのチキンが……。

 チキンは食えなくなっちまったが、火事にならずに済んだ。

 やっぱりオレはツイている。

 まさかオーブンが爆発して爆死なんてゴメンだからな。

「ちょっとウチのシャルロットちゃんはどうなってるの!!」

 女が喚いている。すっかり依頼人のことを忘れていた。

 ドンドンドン!

 なんだ、新しい依頼人か?

 オレは女を押しのけてドアを開けた。

「宅配便でーす、サインお願いしまーす!」

 なんだ宅配便か。

 さっそく荷物を受け取ると、オレは包みを開けようとした――横で女が喚く。

「そんなの後にしてよ! ウチのシャルロットちゃんを探してちょうだい!」

「まあまあ奥さん、話はあとで聞きますから」

「だから結婚してないわよっ!」

 そんな女の声も上の空で、オレはさっそく包みを開けた。

 ダンボールの中には梱包材で包まれた木箱と手紙。

 さっそく手紙を読み上げた。

「なになに、『花火は好きか?』だとさ」

 花火よりも食い物のほうがよかったが、プレゼントだ、こころよく受け取ろうじゃないか。

 オレは木箱を開けた……とたん青ざめた。

「爆弾!?」

 横にいた女も叫ぶ。

「ば、ばばばばばばばくだん!!」

 よくテレビドラマで見たことのある時限爆弾だ。

 刑事だからって、こんなもん見るなんて一生に1度あるかないかだ。

 こんなレアな物を見れるなんてオレってやっぱりツイてるな。

 アゴをガクガクさせながら女が時限爆弾に表示されている数字を指さした。

「これって、カウントダウンしてるんじゃないの!!」

「へっ!?」

 残り42秒……と言っている間にも数字が減っていく。

「奥さん、慌てなくても平気だ。解除方法ならテレビで見たことがある」

「あんたと心中なんてイヤよーッ!!」

 女はさっさと逃げてしまった。

 ふっ、女に逃げられるのは慣れっこさ。

 なぜならオレは妻にも逃げられた男だからさ。

 さっそく爆弾を解除しよう。

 こういうのは赤か青を切ればいいに決まってる。

 ……線がいっぱいあるッ!?

 赤青黄色緑、白や黒に、ピンクまであるぞ。

 7本……ラッキーセブンじゃないか、ツイてるな。

 7分の1なんて宝くじを当てるより簡単だ。

 さてと、ハサミ、ハサミが……ない?

 慌てるな、台所にチキンをさばいたナイフがあるはずだ。

 爆弾を抱えて台所に走った。

 ほらな、台所にナイフがあったろ?

 すぐに切る物を見つけるなんて、オレがツイてる証さ。

 よ〜し、切るぞ。

 どの色にするか悩むところだ。

 赤だな、赤がいい。

 赤はオレのラッキーカラーで、今日も赤色のシャツを着ているくらいだ。

 ナイフを動線に突き付けて、せ〜の!

 ブチッ!

 ……と、止った!?

 カウントダウンは7で止っている。

 やっぱりオレはツイ……あれ、カウントダウンが再びはじまった!?

 6、5、4――

 大丈夫、逃げ足だけは自信がある。

 オレは急いで窓から飛び降りた。

「……あっ、ここってビルの4階だ」

 ドーン!!


 THE END

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― 新着の感想 ―
[一言] スピード感があって面白いと思いました。ですが、これを長編にしたらもっと主人公のハチャメチャぶりが出るのではないか、と思います。
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