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9th Comprehension

 わたしは竜の背を降り、着替え、ぼーっとした意識のまま、そこを立ち去った。

「また来いよー。けぇけっけっけっけっけっ!」

 気楽な竜の言葉を背に受けて帰路についた。家へ帰ると親からいろいろと言われたが、「ごめん、疲れてる」との返答ひとつして、自室のベッドへ、ばさっと倒れ込んだ。

 先程の自分を思い出す。

 やつらに対して、死ねばいい、とは流石に思わなかった。というよりも考えられなかったっていうほうが正確かもしれないけど……。

 ただ大怪我はして然るべき、くらいのことは考えていた。

 大怪我……具体的にどういうものだろうか。空から墜ちる。骨を折る。いったいどこを?

 ……嫌だ。考えたくない。十六年弱生きてきて初めて知った、わたし自身の凶暴性。まさか竜の力を得た途端あんな風になるなんて……。

 目の悪い竜には悪いけど、もう竜の背に乗るのはやめておこう。

 はじめからあんなことしちゃ駄目だったんだ。きっと。

〝竜〟――。

 巨大で、空を自由に、悠々と駆ける〝竜〟。

 人間が科学技術によって、空を自由に飛ぶことが可能となった現代でも、自在に空を行く、それだけで人々の心を魅了してやまない〝竜〟。

 ある人は言う、

「飛行機ができてすでに数百年。安全装置の確実性は飛躍的な進化を遂げて、実に多くの人が、文字通り、翼を得た。問題点が多く指摘されてはいるが、スカイボードなるものも発明された。今、ようやく、空は、本当の意味での人間の領域となった。何を今更古くさい〝竜〟何ぞを崇め奉らなければならぬのか」

 確かにそれは、理論として間違っていないかもしれない。

 でも人間の本能は、そんなことお構いなしだ。竜のその佇まいに、ただただ魅入られてしまうのだ。自動車ができて何百年経ってもなお、馬が力強く走る姿に憧れてやまないように。

〝竜の翼〟――。

 いったい竜はどのように飛んでいるのだろうか。

観念動力(サイコキネシス)〟、というものがある。物に触れず、念だけで動かす突然変異種(ミユータント・)能力(アーツ)だ。

 でも今のところあれだけのからだを軽々と持ち上げられる突然変異種(ミユータント)は存在しない。せいぜい、バスケットボールが関の山だ。

 竜が、とんでもない突然変異種(ミユータント・)能力(アーツ)の持ち主だという仮定もできるけど、それにしては、竜のあの、這うように空を飛ぶ挙動が説明できない。あんなことをする必要があるのだろうか? それに観念動力(サイコキネシス)だとすると、不良どもの落下の仕方だっておかしい。あの、突如バランスを失ったような落ち方……。

 竜の背には、小さな翼があった。小さいといっても鷹の翼くらいの大きさはあったが(形は蝙蝠のもののよう)、あれによって巨体が空を飛ぶなんて考えられない。

 寸法効果、という言葉がある。わたしたちの世界と、わたしたちより遙かにサイズの小さなよりミクロな世界では、支配的な力が異なる。例えば、マクロでは重力が支配的なのに対し、ミクロな世界では(マクロな世界に比して)圧力がより支配的になる。ひらひらと舞う蝶々は、人間でいえば水の中を泳いでいる感じに近い。

 バッタが人間サイズだったら、という仮定に対し、ビルを悠々飛び越えている、という結論は、寸法効果をまったく無視したものだといえる。

 空を泳ぐ……ふと、海蛇が水中を泳ぐ姿を思い出した。いや、遙かに重力が支配的な竜のサイズから言って、空中を泳ぐなんてあり得ないことなんだけど。

 ……何を考えているんだ、わたしは。

 もう、いいじゃん、竜のことなんて。

 もう、わたしには関係ない。もう、誰がどうなったって関係ない。行動しないのが最善の行動。そんなときは、いつだってあるはず。

 不意に、瞼が重くなった。

 眠い。

 あんなことがあって、あんなに集中して突然変異種(ミユータント・)能力(アーツ)を使用したんだから、疲れて当然か。

 あれほどまで自分の力を引き出したのは、初めての経験だ。

 寝てしまおう。構わない。

 睡魔に逆らわず、瞼を閉じた。すると、わたしの意識は一瞬でまどろみの中に消えた。

 夢の中で、竜の背に乗り空を巡っていた。

 残念ながら……それはとても心地のよい夢だった。

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