第四話:出発の日
結局、あの後荷物を纏めたりしていたらすっかり日が暮れていた。
取り敢えず自分は床に毛布なり何なりを敷いた簡易的なベッドで寝る事にした。
(…明日から…ゲームが始まる…さて、色々とその先の計画も練らなきゃな…)
まずは、この世界からの脱出方法。ファンタジー小説風に考えるなら、ゲームの目的である「大陸制覇」によって帰還出来ると考えるのが妥当か?
いや、しかし…
「…この世界に永住するのも面白そうだ」
などとしょうもないことを考えているうちに、いつの間にか意識は途切れていた。
ふと目を覚ました私は、ベッドの上で伸びをし、体を振って飛び起きる。
肺に空気を溜めたままもう一度伸びをして、吐き出す。
「…っ…くぅ〜」
ヤケに気の抜けた声が出たが、まぁいいか。
出発まで、あと2時間。まだ日は出て居ないし、部屋も暗い。
ランプに火を灯し、取り敢えず先程まで寝ていたベッドに腰を降ろした。
昨日、たった1日で私の人生の羅針盤は大きく狂う事になった。
それもこれも、自分が拾ってきた年上の男が原因なのだが。
どうにも彼は掴み所がなく、しかも初対面で私の過去を知っているという変質ぶりだ。
まぁ、自分が言っても居ないのにフルネームを当てられた時点でもう驚きもしなかったのだが。
なんだかんだ言って、上手く言いくるめられて無理矢理引っ張られている感じがするが、案外悪くない。
元よりこの家でずっと暮らしていても、一人でひっそりと住むことになる。こういう冒険も良いだろう。
しかし、あの青年は何をするために、何処から来たのか。全くわからないが、取り敢えず只者ではない。
追憶の森で霧を味方にし、それ以前からこちらの行動まで予測され切って居たのだから、まずただの一般人とは言い難い。
…まぁ、一度あいつに振り回されてみて、その後はその時に考えよう。
…さて、まだ時間はあるし二度寝しようか。
翌明朝。空がまだ薄暗い中目を覚ました俺は、ゆっくりと体を動かした。数時間動いていなかったその体が、少しギシギシと軋みながら起き上がる。
「…ふー…さて、そろそろ出発の準備しないとな」
太陽の位置から考えてあと1時間程度で出発する必要がありそうだ。
取り敢えず朝食を作るべく、貯蔵庫を漁る。一応これでも料理は好きだ。ずっと昔に母さんに手伝わされてたのもあるが、うちの両親は何かと家にいない事が多いのでこれぐらいは出来ていても損はない。
…というわけで、殆どバッグに詰めてしまったので残りが少ない食料庫で、考えられる献立を頭の中で纏める。
「…んじゃ、サクッと作るか」
何なら、エナの分も作ってやるとしよう。
「…ん…ぅ…」
ぼーっとする頭の中を整理しつつ起き上がる。まだ日は登っていないし、丁度良い頃合いか。
…何やらいい匂いがする。…なるほど、父さんが作ってくれたのか。
髪を手で弄りつつ、テーブルへ向かう。
「う…う〜ん…今日のご飯なに…?」
…まだ眠気が覚めない。早く覚めないと…あれっ?
「今日の飯は…ほれ、パンに野菜スープ」
…思考停止。復旧まで3秒。
「…あっ、いやっ、これは違…」
「案外可愛い事もあるんだな〜ははは」
「〜っ//」
もう眠気は完全に覚めた。
羞恥心やらなんやらで顔が熱くなる。まさかこんな惨状を見られて
しまうとは…仕組んだな!!
などと頭の中で葛藤(?)しつつ、目の前に出された何時もより数倍美味しそうな朝食を見る。
「…ユウ、料理できたんだ」
「まぁ、前世で色々あってな」
「…前世?」
「いやなんでも」
調理器具を片付け終えた青年がテーブルの向かい側に座る。同じ献立の朝食を黙々と口に運んでいる。
「…で、あとはもう出発するだけか」
「…そうね…というか、前にも聞いた気がしなくもないけど、街に行ってどうするの?」
「…人助けだけど?」
「…前からそればっかね」
「……まぁ、簡単に言えば戦闘っつーか、盗みだな」
「…はぁ!?なんでそれが人助けになんの!?」
「まぁ、盗み『返す』から人助けなんだよ」
「盗み…返す…?」
「まぁ、詳細は街に着いたら話すわ」
「…もう慣れたわよ…」
そして慣れてしまった自分もどうなのだろう。
「…っと、そろそろ出発しないとな。俺の荷物はもう扉の前に置いてあるから、お前も準備しとけ」
青年はそう言うと、空になった食器類を重ね、水道へと持って行った。
その様子を少し眺めていたが、いつまでもこうはしていられない。
「…さて、私も動くとしよっと」
残り僅かな時間は旅の準備とチェックに費やすこととしよう。