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弱肉強食な世界

作者: 亜ヰ美-aivi-

この国は弱肉強食の世界だ。

身分はなく、ただ強いものがこの国を統べてきた。


そんな国のとある学園には、魔王と呼ばれる女生徒(名をリンという)がいた。

リンは性別、学年に関係なく、己の信念にそぐわないヤツ、己に害をなそうとするヤツを、片っ端からぶん殴って制裁していった。

化け物のように強大な力がある彼女は、周りからは魔王と呼ばれて恐れられていた。


「あんなムキムキマッチョで、ツルピカハゲなおっさんと一緒にしないで欲しいわ。私は至って普通の女子高生です」


「気に食わないヤツを体裁して廻る普通の女子高生って可笑しいでしょ!!」


リンは周りがどう言おうと、自分は極々普通の女子高生だと思っている。

彼女のその台詞に周りを囲んでいた仲間達が爆笑する。

それがこの学園のいつもの風景だ。


そんなある日、隣国から転校生(名をヒロという)が来た。

ヒロは自国でこの国の在り方を知り激怒した。

彼は強きものは弱きを助け、平等な世界が当たり前だと考え、この国の在り方を変えようと乗り込んできたのだ。

まだ年若い彼が一人で出来ることなどたかが知れているのは彼も知っている。

だからこそ、国の縮図と言っても過言ではない学園という機関を使って、自分の考えが正しいことを示し、それをこの国に広めようとやってきたのだ。


ヒロが転校してきても、リン達は変わらず学園生活を満喫していた。

勉強をし、おしゃべりをし、帰りに遊び歩いたり、たまに難癖つけてくるヤツをぶっ飛ばしたり、彼女は普通に過ごしていた。


「おい、てめぇ。弱いくせに調子こいてんじゃねぇよ」


強いものが弱いものに対して、廊下でそんなことを言ってるのもいつものこと。

リンは一切気にせず、ただ横を通りすぎるだけ。


「弱いもの虐めはやめろ。そんなことをしてカッコ悪いとは思わないのか」


「あ"ぁ?噂の転校生じゃねぇか。なんだよ、正義の味方気取りか?」


こんなやり取りも、ヒロが転校してきてからは日常になり始めている。

それでもリンは我関せず、仲間達といつも通りに楽しく過ごしていた。


ヒロが来てから一ヶ月が経った頃、リン達はカードゲームをしていた。

ビリになった人は罰ゲームとして一番の人の言うことを聞かなければならないというゲーム。

結果はリンが一番で、仲間内で一番小柄なカスミ(仲間内では天然ロリ少女と言われている)がビリだった。


「ここは前々からやりたかった猫耳ロリ少女でしょ」


「是非ともスク水も追加で!!」


嫌々と涙目で訴えるカスミを無視し、魔法でちょちょいっと猫耳スク水ロリ少女の出来上がり。


「萌ぇー!!やっぱりハマり役ですな」


等々と、カスミ以外が盛り上がっていた時、リンは初めてヒロから話し掛けられた。


「そうやって弱いものを虐めて、俺はお前を認めない」


否、一方的に怒鳴って立ち去っていった。

リンはヒロが何を言っているのかがわからず仲間達を見るが、皆もわからなかったらしく首を傾げるのだった。

余談だが、この時猫耳スク水姿のロリ少女が恥ずかしさのあまり涙目だった所に、意味不明な転校生とのやり取りで首を傾げている姿は、仲間達がキュン死にするほどの可愛さだったとか。


次の日の朝、カスミがヒロにまたしても意味不明なことを言われ、リン宛の手紙を預かってきた。


「何々?弱いもの虐めをする私に決闘を申し込む。拒否すれば手段は選ばない?ナニコレ?」


リン達はお互いを見ながら目を丸くした。

彼女達は弱いもの虐めをした覚えは一切ないのだが、内容的にヒロが自分達に害をなそうとしていることがわかったので、この決闘を受けることにした。


決闘の日。

学園の許可も下り、コロシアムを貸し切っての学園大イベントと化していた。


ルールは至って簡単。

素手、武器使用可能。

魔法使用不可能。

どちらかが降参もしくは、続行不可能と見なされたら終了。

ただし、殺してはいけない。


「お前みたいな弱いものを寄って集って虐める卑怯ものは俺が許さない。この国を俺が平等な世界に変えてやる」


ヒロのその言葉を聞いて、今までヒロに助けられたのであろう弱者達が歓声をあげていた。

対してリンは、やっぱり意味不明だと首を傾げていた。


「この間からお前は何を言ってるんだ?誰がいつそんなことをした?」


「していたじゃないか!!無自覚とは救いようがないな。お前達が虐めていたあの子は俺が助ける」


そう言ってヒロが指差した先には、キョトンとしたカスミの姿があった。

その姿にリンは萌キュンした。

幾ばくかして正気に戻ったリンは、何やら勘違いでもしているのかと言葉をかけようとしたが、それをヒロが遮った。


「もうお前の好きにはさせない。お前は魔王らしく、俺にやられればいいんだ!!」


俺が皆の勇者になってやる!!とヒロが叫びながらリンに斬りかかってきた。

この決闘が武器ありということで、ヒロは巨大な両手剣を武器に選んでいた。

リンは己の武器である双剣で受け止めたが、この大剣を選ぶだけあって、並な力ではなかった。

力比べでは負けるのを悟ったリンは、大剣をいなし、一度距離をとった。

リンはこのよくわからない決闘の意味を考えるのを辞めた。

考えたところで無駄だと思ったからだ。

結局は勝てばいいだけのこと。

そう決まってしまえば、リンの行動は早かった。

己の速さを活かすために選んだ双剣で、ヒロへ連続攻撃仕掛けた。


ヒロは強かった。

今まで同世代ではリンの攻撃を交わせる者はいても、そこに己が撃ち込んでこれるほどの器量を持った者はいなかった。

だが、ヒロはそれをやってのけた。

この決闘を観ていた生徒も先生も、呼吸するのを忘れるほどに手に汗握っていた。

けれど、リンはヒロ以上に強かった。

魔王と呼ばれるに相応しい、その強さを皆に見せつけた。


ヒロがその場に膝を着いたことで、決着はついた。

もう 一歩も動けないのであろう、ヒロは悔しさから眉間にシワを作り、鋭い瞳でリンを睨み付けた。


「何故だ!!こんな弱いものを強いたげる世界、あっていいはずがない!!俺は絶対認めない!!」


リンは何も言わなかった。

怒るでも、同情するでもなく、表情を一切変えなかった。

ヒロの言葉に、リンではない別の人物が返答した。


「貴方が平等な世界を作りたいと言うのは良いのではないですか。けれど、貴方は今まで虐められてきた弱いものを、これからもずっと一生助け続けるのですか?それは本当に平等な世界なのですか?」


その声の主はカスミだった。

ヒロはカスミの行動が理解出来なかった。

何故カスミを助けようとした自分に、彼女はそんなことを言うのかわからなかった。


「ではまず、貴方は何故私が虐められていると思ったのですか?」


「それは君が抵抗も出来ず、こいつらにいいようにされていたからじゃないか。君は力が弱いから、抵抗できずにいたんだろう。だから、俺が助けてやろうと」


「私は虐められてなどいません。たぶん、貴方が言いたい抵抗出来ずにいた場面とは、出来ないのではなく、しなかった場面だと思いますよ。」


ヒロはどういうことだという視線をカスミに送った。


「確かに私は力が弱いです。しかし虐められている訳でもない。何故だかわかりますか?私は力は弱いが、その分努力で知識を身に付けました。そしてそれを生かした強さを手に入れました。彼女はそんな私を認めたからこそ側においてくれるのです。」


貴方が見たのは、ただ悪ふざけをしているのを見ただけではないのか?と諭すようにカスミは言った。

反論したそうにしているヒロを無視して、カスミは言葉を続けた。


「貴方の守ろうとした生徒達はそんな努力をしましたか?強い貴方の後ろに隠れているだけで、何もしないのではないのですか?貴方は彼らから何を貰ったのですか?」


「俺は別に見返りがほしくて助けたわけではない!!」


「一方的に助けるだけですか?大した正義感ですね。ですが、それって平等なのですか?それなら私の知識が間違ってたのですかね?」


「っう…」


言葉に詰まったヒロは、助けを求めて今まで助けてきた生徒達に視線を向けたが、視線を向けられた生徒達は一様に視線を合わせようとはしなかった。

カスミは尚も言葉を紡いだ。


「この国も彼女も強さを求めます。しかし、それは力だけのことではありません。彼女の周りには力はなくとも、他のことに強さを持つものが沢山います。料理が上手いもの、鍛冶が得意なもの、自分の得意分野を活かした者こそ、国も彼女も認めたのです。」


自分のことだと言いたげに、今まで傍観していたリンの仲間達は一人、また一人と立ち上がり、リンの元へと歩み寄った。


「そして、自分は弱いから何も出来ないと、何もしない弱者を、国も彼女も認めないのです。だからこの国は弱肉強食の国と呼ばれるのです。」


静かにカスミの言葉を聞いていたヒロの表情が段々険しいものになっていった。

カスミの言いたいことはわかったが、それでも今まで自分の信じてきたことが、してきたことが否定されて、プライドとして認められないのだろう。

そんな彼を見て、リンは無表情のままに言った。


「私は頭が悪いからな。お前を納得させようとも思っていない。ただ、お前は私との決闘に負けた。それだけが変えられない事実なのだ。どうしてもこの事実が受け入れられないのであれば、勝手にすればいい。いつでも決闘には付き合おう。だが、私が負けることはあり得ない。私には多くの仲間がいる。そして私には力がある。これも変えられない事実だからな。」


そう言って、リンはその場から立ち去った。

彼女の仲間達も彼女の後を追って行った。


「仲間…」


ヒロは小さく呟き、周りを見渡した。

今まで助けて来た生徒達、その生徒を虐めていた生徒達、今までそんな環境に何も言わなかった教師達の姿があった。

自分が助けた生徒は一様に彼と目を合わせず、他の者達は皆無表情に彼を見下ろしているだけだった。


自分は正しいことをしてきた筈なのに、周りには誰もいない。

この決闘に負けたヒロに残ったものは何もなかった。


そして彼女達が去った後、残されたヒロはいつまでもその場で項垂れていたのだった。

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