声なき窓
あの夏における窓は勝手口だった。
ありふれた窓が下駄箱のない玄関となっていた。
未明に屋外から符丁があれば裸足でそのまま駆け下りた。
そして夜が夜でなくなるまで窓は夢の通用口だった。
閑散とした窓辺は夢遊病の感染源であり続けた。
今のこの嵌め殺しの窓はどこに通じている。
今はどこにも通じていやしない。
情熱が窓枠を変形させていたあの頃。
確かに窓は異次元との出入り口として凝立していた。
功罪や善悪は別として心の窓は閉ざしてはいけない。
いつか必ずもう一度はあの夏の窓が開かれる。