保安部特殊警邏隊Ⅰ
放課後の教室。
皆本は一人立ち尽くしていた。
いや座っているのだから立ち尽くしていたは間違いである。皆本は座り尽くしていた。
学校というものは誰かと一緒にいなければならないというルールでもあるのかもしれない。
みんなが自然と似たもの同士グループを作っていく。
おとなしい者はおとなしい者同士、騒がしい者は騒がしい者同士。
そんな中、皆本はクラスに馴染めずにいた。
平瀬を暗殺しようとしているのが誰なのか未だにわからずにいた皆本は平瀬を監視していた。
暗殺者は平瀬に近づいてくるのだろうと思ったのだ。だが、そんな人物はいなかった。
平瀬はいつも一人で、唯一話すのは姫路ぐらいだった。
皆本は誰にも相談できずにいた。信じてくれるものなどいないだろうし、もし相談した相手が暗殺者の仲間かもしれない。
信頼できる人物。
まっさきに思い浮かんだ人物は姫路だったが、彼女なら大人に相談しようといいかねない。
普通なら困ったことがあれば大人の力を借りるべきなのだろうが、子供の言う暗殺計画なんて信じるだろうか。
ばかにされるに決まっている。皆本は疑心暗鬼に陥っていた。
皆本は学校ではいつも一人だった。
休み時間は次の授業の準備をしていればいいが、昼休みはそうもいかない。クラスメイトが仲良くお昼を食べている中、一人でいるのは目立つ。だから皆本は昼休みになると教室を抜け出して中庭でお昼を食べることにしていた。
警戒は解けない。常に誰かに見られている気がした。誰かに見張られている気がした。
平瀬を殺そうとしているのは誰なのか、目的はなにか。暗殺者は未だにアクションを起こさない。
教室の後ろのドアが開く。思わず振り返りドアを開いた主と目が合ってしまう。
そこにいたのはクラスメイトの相澤だった。
彼は活発で誰とでも仲良くできるような少年だった。どこにでもいる少年。
「皆・・・・・・本だっけ? 一人でなにやってんだ?」
彼はどうやら忘れ物を取りにきたらしい。しかし自分の席には向かわず皆本に近づいてきた。
「悩み事か? おれでよかったら相談に乗るぜ」
相澤は普通の高校生に見える。まさかクラスメイトの女生徒の暗殺計画を練っていそうも思えない。
皆本は隠さず、入学式の出来事を彼に相談することにした。
「笑ったりしない?」
「笑ったりしないぜ?」
「ホント?」
「早く言わないと怒りはするだろうな」
「このクラスに暗殺計画を立てている生徒がいるんだ」
「暗殺計画だって!?」
相澤が押し黙ったのは一瞬で、すぐに吹き出した。
「アハハハッハハハッハ。暗殺? 高校生が? 漫画の読みすぎだぜ!」
「笑わないって言っただろ!」
皆本はホッとした。相澤はただの高校生だった。彼は暗殺者なんかじゃない。
まわりの机が倒れる。
皆本は自分が羽交い絞めにされていることにしばらく気がつかなかった。
「どこまで知っている?」
頬に冷たい金属の感触。皆本はナイフを突きつけられていた。




