彼のルール②
「姫路のやつ機嫌よかったな」
部室からの帰り道。皆本は相澤と帰路を共にしていた。
「相澤が気付いていたとは……」
「おれをなんだと思っているんだ!」
今日の姫路が機嫌がよかったのはわかりやすすぎだが。
「仲間が増えて嬉しいんだろうな、きっと。ずっと一人で任務にあたってきたから」
「一人? 相澤がいるじゃないか」
「おれが任務に参加したのは今年の春からなんだ。つまり二ヶ月ほどだぜ。中学の時は姫路一人」
ずっと一人だったのか。中学生の女の子が誰にも秘密を漏らすこともできず、辛かったのではないだろうか。
いや、彼女もプロだ。そんな感情はとうの昔に捨ててきたのかもしれない。
「じゃあ相澤が姫路と知り合ったのは最近なの?」
「名前だけは知っていたぜ。あいつは有名だったから」
「有名だったのか姫路」
「ああ、いくらトクラと言えども中学生が潜入捜査、つまり最前線にいるなんて通常なら異常だからな」
姫路は優秀だった。皆本が知っている姫路は勉強もでき、教師からも好かれ、友人からも好かれるような模範的な優等生だ。
トクラ内でもそれは同じらしかった。
姫路の頭の回転は速い。常に先を見越した行動を取る。
ただ、規則を重んじる姫路と破天荒な相澤とでは相性がいいとは思えないが。
だからこそのコンビなのかもしえない。
「姫路に初めて会ったのは今春の研修の時だ」
「トクラは研修なんてあるのか」
「研修と言っても勉強会みたいなものだぜ? トクラには戦闘訓練がないからな」
「保安部なのに戦闘訓練がないのか。それで人を守れるのか?」
「さぁ?」
「さぁって! いいのかよそんなんで」
相澤は前を向いていたが、どこか遠い目をしていた。なにか遠い記憶を思い出しているのかもしれない。
「おれたちは特別な人間じゃない。特殊な人間の集まりなんだ。一つでも才能に突出していればいい。若いってだけで、もうそれは才能なんだぜ」
相澤は今までどのような人生を送ってきたのだろうか。平坦ではないだろう。この年で特殊な仕事をしているのだから。
聞いたら答えてくれるだろうか。
聞いたところで意味の無いことだと皆本は考えを引っ込めた。
「なぁ一つ聞いていいか、相澤」
「なんだ?」
「平瀬は元テロリストだった。言ってみれば政府の敵だろ? それでも守り続けるのか? お前は姫路と違って上層部の意見なんてきかなそうだけれど」
「上層部の意見なんてのは関係ない」
相澤は歩みを止めた。皆本が前に出た形になる。
皆本は後ろを振り返ると相澤はいつになく真剣な顔をしていた。
「おれの世界にあるルールはたった一つだ。おれを誰も強制することはできない。たった一つのルールを守り続ける。だからおれは平瀬を守る」
相澤はシンプルだった。彼の中にはたった一つしかルールがないのだから。
彼はルールに縛られない。
だがそれは所詮他人の定めたルールだ。
彼は自分の決めたルールに従う。
そのルールとはなんなのか皆本には想像もつかなかったが、それが人としての理想的な生き方のような気がした。
それは国の理想的な形のような気がした。
光が差した。
眩しすぎて、皆本には直視することができなかった。
直視することが許されないのかもしれない。




