日本の夜明け弐
「今から、玖珂を追う! 平瀬があぶない!」
「待ってください! 玖珂さんがエージェントだと決まったわけではないじゃないですか!」
「皆本との電話の内容がそれを証明しているぜ?」
「じゃあなんで玖珂さんはわざわざ皆本さんに正体を明かすような真似をするんですか? 彼がエージェントなら正体がばれないよう振舞うはずです。
万が一彼がエージェントだったとして、先ほどの電話は罠です。こちらが玖珂さんを追うように仕向けているです。危険です」
「それでも、おれは行かなければいけないよ」
皆本は制止する姫路を振りほどき走っていってしまった。
「ああ、振られちゃったな。おれは皆本を追いかけるけどお前はどうする?」
「相澤さん、わかっているんですか? 我々トクラは校内のみの活動しか許されていないことを。許容範囲外です。この件は上層部に任せます」
「出たぜ、いい子ちゃんが」
「なんですか!」
「始末書が怖くて人を守れるか! ルールを守っているようじゃなにも守れない!」
「ルールを守って何が悪いんですか……。わたしはなにも間違ったこは言っていません!」
「ああそうかよ! 一生やってろ!」
相澤は走りだした。このまま姫路と言い合いをしていては皆本の姿を見失ってしまう。
そして立ち止まっていた皆本に追いつく。
「おい、皆本。玖珂がどこにいるかわかっているのか?」
「知らん!」
「知らんって。電話の向こうから手がかりになりそうな音とか聞こえなかったか?」
「そういえば電話の向こう側が騒がしかった! 駅前の商店街だ!」
皆本は再び走り出してしまう。相澤も後を追う。
「騒がしいだけで商店街って決め付けるのはどうなんだ?」
「繁華街の向こう側には平瀬の家があるんだ。玖珂は平瀬の家に向かっているに違いない」
二人は繁華街を抜け、平瀬の家に向かった。
平瀬の家の前には背の高い少年が腕を組んで、塀に背を預けていた。
玖珂だった。
「お待ちしてしていました。おや? お二人ですか。てっきりトクラのメンバーは三人いるものと思っていましたが」
相澤は小さく舌打ちをした。
「単刀直入に聞くぜ! お前の正体はなんだ!」
玖珂はこちらに向き直った。
「僕は『日本の夜明け』のメンバーです」
「『日本の夜明け』だって?」
「おや、ご存知でしたか」
「相澤、知っているのか?」
「ああ、『日本の夜明け』は超過激派のテロ集団。今東京中を混乱させている武装集団だ。テロ屋がこんな田舎に何の用だ」
「なんの用って平瀬を狙ってきたんだろ」
「ご明察です」
玖珂はパチパチと手を叩き、拍手した。
「次々に変わる国のリーダー。統率力の欠片もない。あなた方も知っているでしょう? 今、国を変えることができるのは政治家じゃない。我々テロリストだ。だから我々『日本の夜明け』はこの国を洗濯することにしたんです」
「東京じゃあいろいろやっているようだな。国会議員の事務所襲撃。大臣の拉致監禁。それじゃあまだ飽き足りないのか」
「決定打が欲しいのです。国を揺るがすほどの」
「なにをする気だ!」
玖珂は口角を少し上げ、笑ったような表情をした。
「国会議事堂を襲撃します」
「それって!!」
「はい、二年前、日本革命時に蛍火が行ったこと同じです」
「だけどあれは失敗しただろ」
「同じ轍は踏みません。だから蛍火の協力が必要なのです。僕は蛍火のリーダーに接触するためにこの町にやってきました」
「まさか平瀬が蛍火のリーダーだって言うんじゃないだろな? 平瀬はまだ高校生だぜ、日本革命の時なんか中学生だぞ」
「年齢は関係ありません。僕だってあなただって高校生ですが高校生らしからぬことをしているじゃないですか」
「まぁそうだが……」
「平瀬が蛍火のリーダーだって根拠はあるのか?」
「根拠は二つあります。まず第一の根拠ですが、蛍火はある拉致事件がきっかけにして生まれた組織です」
「そんなことは誰でも知っている」
「拉致事件から組織結成までの期間があまりに短いのです。政府の内部情報が漏れいた可能性が高い。これは組織内に政府関係者、もしくはそれに準ずる者がいたのならつじつまが合います」
「だったら政府の中に告発者がいたんだろ」
「平瀬ほたるは平瀬家のご令嬢。平瀬家は政治家を何人も輩出する名家です。政府の内部情報を知っていてもなんらおかしくはない」
「政府関係者なんて他にもいくらだっているだろ。なにも平瀬だけじゃない」
「第二の根拠です! 蛍火の幹部は自分たちを蛍の名前で名乗っていました。ヒメボタル、オバボタル、ゲンジボタル、そしてヘイケボタル。平瀬ほたるは政治の世界ではこう呼ばれてるんです。」
――平瀬家の蛍、ヘイケボタルと。




