第7話 六層の廃棄物
残留分の処理は、朝のうちに片付けることにした。
20件超の反応が、まだ廃棄区画に積み上がっている。
【遺物探知】を起動すると、いつものように光点が散らばって見えた。
ただ、昨日の夜から一晩経ったせいか、薄い反応はさらに薄くなっていた。
スキル結晶は時間が経つと劣化するらしい。
分かっていたことだが、急ぎすぎる必要はないとしても、のんびりしすぎるのも良くない。
手近なところから処理を進めた。
5件処理して、収穫は2件。
【空間把握Ⅱ】と、名前のない基礎強化スキルの残滓。
残滓は吸収不可だったが、【空間把握Ⅱ】は使える。
位置感覚がさらに鋭くなる感触があった。
廃棄区画の構造が、頭の中の地図と完全に一致し始めた気がする。
残りの15件を続けて当たろうとした、その矢先だった。
◇
廃棄区画の入口に台車の音がした。
作業員が2人、台車を押して入ってくる。
荷物の量は少ない。台車1台。
だが、積み上げる前からすでに反応が届いていた。
【遺物探知】に、じわりと熱が差し込んでくる感触。
普通の遺物の反応とは、何かが違う。
蓮司は作業を止め、台車が置かれるのを待った。
「こっちに置いていいっすか」
「ああ、そこで構わない」
作業員たちが去る。廃棄区画に静けさが戻る。
蓮司は台車に近づいた。
遺物の数は12個ほどだ。
五層の廃棄物に比べると少ない。
だが【遺物探知】が拾う反応の数は、その半分以上にある。
打率が違う。
五層廃棄物のときは、10個中3件ほどが収穫できれば良い方だった。
これは12個中6件以上が反応を持っている。
中身が残っている割合が、はっきり高い。
しかも、一つ一つの光点の濃さが別格だ。
「……これが六層か」
思わず独り言が出た。
◇
一番近い反応から手を当てた。
遺物の外見は地味なものだった。
拳大の球状の物体で、表面に薄い膜が張り付いている。
膜はすでに剥がれかけており、中心が割れていた。
見た目は完全なハズレだ。
【解体】
力を流し込んだ瞬間、感触が変わった。
五層の遺物とは、手応えが違う。
密度が高い。
内部が複雑に層を成していて、外殻を剥くたびに次の層が現れる。
時間をかけて、丁寧に剥いていく。
最後の層が崩れ落ち、青みがかった金色の結晶が転がり出た。
吸収した瞬間、視覚と感覚の間に新しい軸が生まれた。
『スキル結晶【魔力感知Ⅱ】を取得』
廃棄区画全体に、うっすらと流れるものが見えた気がした。
魔力だ。
ダンジョンの空気に溶けている魔力の流れが、今まで見えていなかった解像度で感じ取れる。遺物一つ一つが、微かに違う色の熱を持って見える。
【遺物探知】は「遺物がある」と教えてくれる。
【魔力感知Ⅱ】は「それが何の性質を持っているか」を教えてくれる。
2つが組み合わさると、廃棄区画の遺物の山が以前より鮮明に見えた。
反応の強さだけでなく、性質の違いまで、おぼろげに分かるようになった。
「……これは、使える」
静かに、そう思った。
◇
六層バッチの残り11件を順番に処理した。
収穫は5件。五層の平均を大きく上回っている。
そしてその5件の中にも、明らかに品質の差があった。
基礎強化系が3件。使えるが、珍しくはない。
もう1件は、扱いが難しい種類だった——性質が複雑で、吸収したとき体への染み込みに少し時間がかかった。それでも吸収できた。
そして最後の1件。
蓮司は台車の端に置かれた遺物を手に取り、すぐに下ろした。
反応が、おかしい。
光点の濃さじゃない。
質が違う。
今まで感じてきた反応とは、根本的に何かが異なる。
強い、というより、重い。
持ち上げたとき、遺物自体に重みがあった。
それだけじゃなく、何か押し返してくるような感触がある。
まだ触れない方がいい。
直感でそう判断した。
急いで崩して内部核を潰すより、体調が万全の状態で、時間をかけて当たる方がいい。
「……明日、最初に来る」
台車の端に戻して、蓮司は作業を終えた。
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