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04 メイさんのおかげです

帰り道、メイは歩みを緩め、バッグに手を伸ばした。

指先に触れたのは、小さな冷たい金属の感触。

キーホルダーを持ち上げると、街灯の光を受けて、結び目の奥が淡くきらめいた。


学生時代、アザレアと並んで展示を眺めていた日のことが、ふっと胸の奥に浮かぶ。

難しいことなんて分からなくても、ただ「綺麗だね」と笑い合えたあの日。

その無邪気さが、今では少し遠い。


光の反射が揺れた瞬間、別の記憶が静かに蘇った。


――高校の部活でのこと。


二つ下の後輩、アザレア。

感情の振れ幅が大きく、時に制御がきかなくなる子だった。


決定的だった日のことを、メイは今でも鮮明に覚えている。

練習中、アザレアは突然怒鳴り出し、周囲は凍りついた。

誰も止められず、空気だけが張りつめていく。


部長だったメイは、そっと手を上げて合図した。


「あなたは間違ってない。ちょっと話そうか。みんなは練習してて」


アザレアの肩に軽く触れ、静かに連れ出す。

廊下に出ると、メイは深呼吸し、落ち着いた声で言った。


「落ち着いて。今は話さなくていい」

「あなたが一生懸命なのはわかってる。それは悪くない。でも、苦しんで泣いてるあなたの顔を、私は見たくない」


アザレアは何も言わず、ただ涙をこぼしていた。

その沈黙を責めることなく、メイはそっと続けた。


「辞めるのも選択肢だよ。自分を守るためにね」


優しさでも、突き放しでもない。

ただ、事実を静かに差し出しただけだった。


アザレアはその後、静かに退部した。


――それ以降だった。

アザレアが、メイに心酔するようになったのは。


大学に進み、就職し、アザレアに恋人ができ、やがて婚約する。

その節目ごとに、アザレアは必ずメイを頼った。

困ったときには連絡を寄越し、場が乱れればメイが整え、誰も気づかない小さな行き違いも、メイがそっと拾っていった。


アザレアは対人関係でつまずきやすく、少しのことでパニックになる。

そのたびにメイは先回りし、言葉を選び、他人に迷惑がかからないように配慮し、空白を作らないように動いた。


けれど、その優しさが理解されるとは限らない。

アザレアは感謝を口にするが、メイの疲れや負担にまで思いが至ることは少なかった。

メイもまた、それを責めることはしなかった。


そして今年のアザレアの誕生日。

メイはプレゼントを渡し、食事をし、笑い合った。


「大好きな人と食事して、楽しいお話をして、プレゼントまでもらえるなんて、とても幸せです」


アザレアの笑顔は無邪気で、まっすぐで、

その瞬間だけは、メイも満たされた気持ちになった。


(ただの、よくいる優しい先輩――私は、そうだったはずだ。)


キーホルダーを握る指先に、わずかな力がこもる。

光は変わらず美しいのに、その奥にある意味だけが、少しずつ違って見え始めていた。

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