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過去の男
「今一度、お尋ねします。娘さんが殺されたと思われる根拠は?」
崖の上で唐突に切り出された質問に、男性は顔を背けながら言葉を零した。
「……行方不明なんだ」
「誰が?」
「昔付き合っていた彼氏だ」
「どのような人物です? 会ったことは?」
「高校の同級生だ。ラグビー部に入っててチャラついた細身の男だった。向こうは浪人して、娘は大学に進んだ。それからも交際はしばらく続いていたが、ある時、娘が暴力を振るわれた事がわかり、私が強引に別れさせた」
表情を変えずに仮矢咲は間を置くと、聞き返した。
「彼は、それを恨みに感じていたと?」
無言で相槌を打つと、男性は再び口を開く。
「それでも家に押しかけてきて、復縁を迫っていた。流石に耐えかねて、警察に通報した事が何度もあった。向こうは大学受験失敗して、余計に娘の事を逆恨みしていたらしい。裁判沙汰にもなって接近禁止命令が出されてからは漸く姿を見かけなくなったが」
食い入るように聞いている仮矢咲に対し、男性は畳み掛けた。
「奴の事を先に調べてくれ。きっと何か出てくるはずだ」