探知
「すぐに見えたり聞こえたりできないのか? あんた霊能力者なんだろ?」
自分の娘が命を絶った現場で、男性は焦りを滲ませながら隣に佇んでいる仮矢咲に問うた。
眼下は断崖絶壁だ。
横殴りの風が吹き、恐怖と共に咄嗟に両足を踏ん張る。
「……それは、何なんだ?」
仮矢咲の両手に持たれたラジコンのコントローラーのようなものに目を奪われる。
傍から見たらスーツ姿の男が自殺の名所でドローンでも操作しているようにしか見えない。
アンテナがついておりレバーの上に小さなディスプレイのようなものがついていて、そこに病院で目にするような呼吸器の波形らしきものが見える。
「安定しています」
「何だって?」
思わず男性が眉を顰めると、仮矢咲は画面に顔を向けたまま言い添えた。
「同じ周波数です」
何度も瞬くと、男性はじれったそうに顔を歪める。
「……何の話をしているんだ?」
「娘さんの亡くなる前の思いを今読み取っています。霊や思念というものは極めて低い周波数なのですぐに感知できるのですが」
ここに来て漸く相談する相手を間違えたかのように、男性は吐息とともに首を横に振った。
俄かに仮矢咲は問い掛けた。
「娘さんは、ここから飛び降りたと?」
苛立ちとともに向き直る
「だから、さっきからそう言ってるだろ! 遺体がこの真下で発見されたって警察も……!」
思わず目を丸くする。
突然、仮矢咲は意を得たようにコントローラーのアンテナを引っ込めるとその場で屈み、地面に置いていたアタッシュケースに機器をしまい始めた。
目を泳がせながら、男性は問い掛けた。
「どうしたんだ? 終わったのか? 娘の声は?」
ケースを閉じると、やおらに立ち上がり漸く仮矢咲は男性に向き直って言った。
「調査の結果、亡くなる前の娘さんの思念を感知できませんでした」
男性の眉間の皺が深くなる。
「でも、ここから飛び降りったって警察が……」
「娘さんだけじゃありません。おそらくここ二十年は誰も飛び下りてはいません。名所と謳われていますが。これから死のうとする人間の恐怖の波形はとてもわかりやすいものです」
動揺を隠し切れないように顔面を引き攣らせながら男性が声を絞り出す。
「じゃあ……警察が嘘をついているとでも?」
ポーカーフェイスのまま仮矢咲はその絶壁を見下ろしながら呟いた。
「いいえ。娘さんがここから落ちたのは事実でしょう」
さっぱり言ってる意味がわからないように男性は言葉を噤む。
「ここに見られる迷いや恐怖の思いはゼロです」
「……つまり?」
仮矢咲はゆっくりと顏を上げ、男性の方を振り返ると言った。
「娘さんはここに来た時、すでに息を引き取っていた」