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とあるギルドの探索者交流


 探索者ギルド。そこにはいつも色々な人間がいる。

 世界中から腕に覚えのある者が集まるこの場所は、それ故に世界中からクセの強い者を集めた場所でもある。文字通りの曲者揃い。


 例えば、今僕の目の前にいる気の良いお兄さん。

 一見すると何処にでもいる優しい顔だが、よく見ると装備がえげつない。真竜の鱗の鎧、オリハルコンの剣、黒ミノタウロスの革靴に、魔水晶のペンダント。そのどれもが深層産かつ入手難易度SSSランクの代物である。つまりは歴戦の猛者というやつだ。

 ただ彼の真価はそんな外見や強さだけの話ではなく――――


「アルバートさーん。こんにちはー」

「おや、マキ君じゃないか。今日も元気だね。これからダンジョンに潜るのかい?」

「はい、そうなんですけど。その前に、アルバートさんに見てほしいものがあって」


 僕は挨拶も束の間、早速本題を切り出す。腰にぶら下げた麻袋から僕が取り出したのは、紫に輝く宝石のような石だった。


「昨日、『夕焼けの墓標』で死神を倒したら出てきたんですよ。これ、何か知ってます?」

「『墓標』で死神って言うと、リーパースケルトンかな? となると、それは魂魄石だね。また随分と珍しいものを持ってきたものだ」

「コンパクセキですか? どういうものなんです?」

「簡単に言うと、リーパースケルトンが刈り取った魂を収納する入れ物だね。ほら、あれと戦ってるとき、じわじわと精神が削られる気がしない? あれってリーパースケルトンが一定範囲に入る敵からちょっとずつ魔力を吸収してるんだよ」

「へえーー⋯⋯て言うことはもしかしてこれ、魔水晶みたいな使い道があるのでは!」

「お、よく気がついたね。そうだよー。加工次第では魔法の補助具になったり、はたまた魔道具になったりするんだ。俺なんてこれを取るのに、一週間以上『墓標』に潜りっぱなしだったのに、もしかして取り方知ってたの?」


 そんなことはない。『夕焼けの墓標』は中心にどデカい教会という名のボスエリアがあり、その周りを無数の墓と十字架で埋め尽くしているようなエリアなのだが、道を歩いていたときにちょうど真横の墓からお化け屋敷のように死神姿が現れたので、びっくりしてありったけの魔術を畳み掛け倒したのである。そうして、塵も残さず消滅させたところに落ちていたのが、この宝石のような物体だった。


 その時はあまりの出来事に我を忘れてありったけの魔力弾を打ち込んだのだが、今にして思えばオーバーキルも良いところだ。でも、悪いのはホラー映画ばりの登場をする死神君の方だと思う。


 そう僕が事情を話すと、アルバートは大きな声をあげて笑い出した。そうして、ひとしきり笑うと笑顔のまま納得したように口を開く。


「ふう――なるほどね。君は運が良かったってことだ」

「そうなんですかね。ただ変に脅かされただけのような気もするんですけど⋯⋯」

「そんなことはないさ。その魂魄石はね、まだ何も入っていないときじゃないと落ちないんだよ。つまり、君の真横にちょうど湧いたばかりのリーパースケルトンだったから、その石は手に入ったのさ」

「な、なるほど。そう思っておくことにします」


 そうして、お礼の挨拶をした僕は、その場を後にする。

 僕がアルバートさんのところを離れるや否や、彼の周囲にはすぐに別の後輩探索者たちが現れて、相談や報告なんかをしているのが目に入る。


 そう。彼の凄いところは、その知識量だ。

 嘘か誠か、探索者アルバートは今まで到達が確認されている階層において知らないことはない、と噂されるほどのダンジョンオタクなのである。実際、ギルドにあるどの専門書を読んでもわからなかったものを、一目見ただけで看破したことが幾度もあるだ。ギルドにおいては、わからないことがあればアルバートに聞け、というのが慣わしのようになっていたりする。


 それにアルバートさんも、大体の探索者がダンジョンから引き上げてくる夕方頃には必ずギルド内にいて、嫌な顔一つ見せずに彼らの話を親身になって聞いてくれるのだ。

 なんて完璧なチュートリアルのお兄さん。いや、みんなの帰りを待っているという点では、お母さんの方が近いかもしれない。お母さんの知恵袋的な?




 そんな他愛もないことを考えながら受付へ向かって歩いていると、受付横の掲示板に何やら人集りが出来ているのが目に入った。

 不思議に思い近づくと、溌剌とした声が耳に届く。


「あっ! マキ君がいる!」

「ホントだ! マキ君だ!」

「――えっ」


 僕が声のする方へ振り向くと、そこには猫のような耳を頭につけた軽装の探索者が二人。髪型が違うだけで他はまるで瓜二つの獣人姉妹だった。


「ああ、ルルさんとココさん。こんにちは」

「もうこんばんはの時間なんじゃないかな、マキ君」

「もうこんばんはの時間なんだよ、マキ君」


 そう姉妹は口々に同じようなことを語りかけてきた。

 この二人は双子の獣人であるルルとココ。髪をシニヨンにまとめているのがルルで、ポニーテールに縛り上げているのがココである。じゃあ、彼女たちが髪型を変えたらって? きっと保護者の方じゃないとわからないんじゃないかな。


 そして、この双子姉妹がここにいるということは――――


「お前もアレを見に来たのか? アリス・マキ」


 そう言って、二人の後ろから現れたのはすらっとした背の高い金髪イケメンだった。


「レオンさん! いや、僕は何があったんだろうと思って来ただけですよ。あれは何の集団なんです?」

「何だ、今日が何の日なのか知らないのか?」


 そう問い返してくる青年の名前は、レオン・アウラム。ここにいる双子姉妹のパーティーリーダーであり、保護者的立場でもある。そして、二年前に起きた魔王軍との戦争における英雄だったりもする。少し前に何故か剣術勝負になりボコボコにされてから、ギルドで見かけると声をかけて貰えるようになったのだった。


 これでも小学校の頃から剣道をやってたんだけどなあ。剣の技術で手も足も出ないとは思わなかったよ。流石は英雄。


「ふむ。今日って何か特別な日でしたっけ?」


 ギルド的な記念日とかあったっけ、と思い出そうとするも、そもそもこの街に来て一年足らずの新米探索者である僕には何も浮かばなかった。ヨンマルヨンノットファウンド。


「まあ、君のようなソロでは関心がなくても仕方がない。が、強くなるには強敵(ライバル)の存在を認知するもの効果的だぞ」

「ああっ! 貢献度ランキングですか!」


 そう言われて、僕はようやく思い至る。

 ギルドには『貢献度ランキング』と呼ばれるものが、三ヶ月に一度の期間で更新される。主にどれだけダンジョンの開拓に貢献したか測るもので、到達階層や指定モンスターの討伐、入手難易度の高い素材の納品といった幅広い項目で審査されるらしい。一度に三十位までのパーティーが張り出されるのだが、その全てが歴戦の猛者。到達階層50超えの化け物たちである。


 僕も探索者として活動する以上、一度でいいからあの中に入ってみたいけど、それよりもまずはパーティーに入らなければならないのが、何よりも大変だ。だからと言って、ユウちゃんのパーティーに入れてもらうのも違うしなあ。


「レオンさんたちはどうだったんですか?」


 気になったので僕は素直に聞いてみた。確か前回のランキングでは、レオンさん率いる『獅子の軍勢(レオニス)』は二十位くらいだったはずだけど。


「喜ばしいことに上がっていたよ。十五位だ」


「ふふん! 驚くが良い、少年!」

「ふふん! 慄くが良い、少年!」


「凄いじゃないですか! ていうことは、もしかして60階層に到達したんですか?」

「そうだ。『真竜騎士団』と合同ではあったがな」


 謙遜するように金髪の男は言うが、それでも十分な功績である。ダンジョン50層以降は未だマッピングが完了しておらず、その攻略の不明瞭さから『未知領域』と言われ恐れられている。そして、その『未知領域』を進み、60層まで辿り着いたパーティーは『金剛章』と呼ばれる勲章がギルドから授与されるのだ。


 最上位クラスにおいて順位が数個上がるとなれば、おそらく『金剛章』を授与したからだろう。そして、その予想はあっさりと肯定されてしまった。


「流石、レオンさん! 僕もやる気出てきました!」

「元気があるのは良いことだ。だが、無茶はするな。ゆっくりと進め。君ならば必ずここまで来れる」

「はい! ありがとうございます!」


 そう言って、僕はお辞儀をすると、鼻歌まじりに受付へ向かう。

 やはり、最上級探索者に褒められると、それだけでやる気がモリモリと湧いてくるというものだ。

 しかし、油断は禁物。ダンジョンでは油断した者、無茶をした者から順に、酷い目に遭うと相場が決まっている。

 しっかりと兜の尾を締めて、安全第一で攻略するのが、僕のモットーである。




 そんなこんなで受付までやってきた僕は、いつも受付をしてくれているエルフの女性に話しかける。


「セシリアさん、こんばんはー」

「ごきげんよう、マキ君。今日は一段とやる気に満ちてるわね。体調はどう?」

「はい! 元気溌剌です! ファイトーイッパツ!」


 僕は某CMを頭に浮かべながら、崖下の仲間を引き上げる動きをする。そして、目前の相手はそれを一瞥すると、何事もなかったかのように確認作業を進める。僕もこの扱いには慣れっこなので、質問に答えるのだった。


「うん、いつも通りね。今日はどこまで行くの?」

「昨日と同じで24階層の『墓標』まで。今日はボスの様子を見てきます」

「それなら確認だけに留めておいて。調子に乗って何の準備も無しに討伐しようとすると、痛い目見るんだから」

「大丈夫です! 危険なこと、無茶なことだけはしないが、僕の方針なので」


 僕はそう言って、セシリアさんに敬礼する。

 彼女は気にする様子もなく、手元の紙へ羽ペンを走らせている。


 そして、一度うんと頷くと、そういえば、と口にした。


「『夕焼けの墓標』に行くんだったわよね?」

「はい、そうですよ」

「ちょうど良いクエストがあるんだけれど⋯⋯」


 エルフの受付嬢は、確かここに、とデスクの下にある引き出しを開けて、一枚の紙を取り出すと僕の方へ差し出した。


「ええっと何々⋯⋯『王の骸の討伐隊募集』⋯⋯王の骸って何ですか?」

「そっか、マキ君ってまだこの街に来たばっかりだものね。知らなかったか。ええっと、王の骸というのは――――」


 僕は小学校の先生を思い出しながら、セシリアさんの説明を聞く。

 ダンジョン24層『夕焼けの墓標』では周期的に魔物の氾濫があるらしく、そのとき中心で統率をとっているのが『王の骸』と呼ばれる個体らしい。それを討伐するまで魔物が湧き続けるので、氾濫の兆候が見られたときは多くの探索者が集められ討伐に向かうらしい。


 二、三年周期で起こるというが、どうやらそれがちょうど一週間後に迫っているということで、今『墓標』ではその準備が行われているとのことだ。

 確かに、昨日はいつもより人が多いなと思っていたけど、気のせいじゃなかったらしい。


「なるほど、数年に一度のお祭りイベントですか」

「どう? 興味ある?」

「興味はありますけど、僕基本的にパーティー戦闘だと微妙ですよ?」


 本当に自慢じゃないけれど、僕はビルドが器用貧乏なので、パーティーを組むとやることがなくなるのだ。僕がソロで活動している理由はもちろんそれだけじゃないけれど、ほとんどはそれが原因である。

 だって、みんな魔法使いとか斥候とか、一芸に特化した人を入れたいでしょ。中途半端な僕を入れてくれるところなんて、ないない。


「大丈夫よ。大規模部隊といっても烏合の衆みたいなものだから、みんな連携なんて期待してないと思うわ。邪魔さえしなければ何をしても良いのよ」

「そんな無茶苦茶な⋯⋯」

「それに前線へ出なくても、補給部隊だったり雑用だったり、仕事はたくさんあるから、興味があるなら一度顔を出してみると良いわ」

「なるほど、それなら一旦様子だけ見てきます」


 そう言って、僕は依頼書を受け取り、セシリアさんにお辞儀をしてその場を後にする。

 セシリアさんはいつものように、死なないように気をつけていってらっしゃい、と言葉をかけてくれた。


 それにしても、『王の骸』かあ。一体どんな姿をしているのだろうか。

 僕は頭の中で色々な形を思い浮かべながら、ギルドを抜けてダンジョンの入り口を跨ぐのだった。


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