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家族になれるかな

前回までのあらすじ


かつての先輩で、「学園」の講師となっている大川先生から、男が「学生を預かってほしい」と頼まれる。大川先生から「ダンス部のJKだぞ、かわいいぞ、お前もそろそろそういう年頃だろ」と謎の力説をされ「どういう年頃なんですか!」と返すも、なし崩し的に学生と会う約束を取り付けられてしまう。男は先輩には逆らえないのだ。そうして、学園に久しぶりにやってきた男は、ダンス部の高校生たちの一団に遭遇する。そこで、男はひとりの際立って輝いていた少女に目が留まる。「ダンス、青春だね」などと思っていると、その少女がこちらに向かって駆けてくる。その先には大川先生。すれ違った瞬間、爽やかな一陣の風が吹いた。「こいつだよ」と大川先生の声が響くと、少女は振り返る。「おにいちゃん?」

「わー、オートロック!」


「わー、おうち広い!」


「わー、リビング広い!」


「わー、わたしの部屋?ひっろーい!」


「プールついてる!ねえ水張っていい?」


「水道代高いからだめですよ。」


「えー、つまんなーい。」


「夏になったら水遊びくらいできるように水張りますから。」


「本当に?約束だよ!」


「ええ、まあ。」


最近は異常気象で夏は暑い。グ◯タさんもそういっている、と思う。こういうときはケチってはいけないのだ。


「それから、絶対に、勝手にどこかにいかないでね。」


「そうですね。大丈夫。」


まだ通話アプリのIDは交換するほどではないかな、後でいいや。まずは家に慣れてもらおう。


日が落ちて、あたりが暗くなってきた。とりあえず間接照明をつけて、ソファに腰掛ける。


「同じおうちでふたり、って、わくわくする!」


「どんなふうにですか?」


「ほら、なかよしになって、それから恋人同士になったりとか。」


「そうですね。大きくなったら、考えてもいいですよ。」


「おにいちゃん、意外と大胆……。」


「ん?んん?!」


「こういうの初めてだから、優しくしてね。」


急にスカートを脱ぎ、シャツのボタンを外し始める舞奈。


んん、おおお?


ああ、そうか。


「そういう意味ではないですよ。」


「じゃあどういう……。あっ。」


舞奈の頭に、ぽん、と手を置く。


「言い方が悪かったかな。成長して立派なレディになったら、ということです。」


「あ……。解釈違いだったね、うん、うん。」


「まさかそういう解釈になるとはね。」


苦笑いするこちらに向けて、舞奈は顔を赤らめている。それはそうだ。


「でもちょっと、ドキドキしたでしょ?期待した?ねえ期待しちゃった?」


「大人は下着や裸くらいでは動揺しないのですよ。」


ハッタリである。さすがに動揺は隠せない。


「またまた。わたしはいつでも大丈夫だからねッ!」


「こっちの身が持たないですよ。」


「へぇ、どこの身かな?ふふん。」


舞奈はいたずらな顔で両手を広げ、指だけわちゃわちゃと動かす。


間接照明が影を作った。小悪魔である。くすぐり攻撃が始まった。


「ほりゃほりゃほりゃー!」


「む、ははは、やめなさい。ああそこは、だめ!」


そうだな、家族もいいものかもしれない。



全身が麻痺している。動けない。誰も助けてくれない。

大学に行かなきゃ。講義にいかないと。

でも身体が動かない。助けが必要だ。ああ、誰かの声がする。誰だ?


「おにいちゃん!おにいちゃん!」


「舞奈さん?あ。」


舞奈はこちらに馬乗りになって顔を近づけている。


「あーさーだーよーッ!」


家族が増えたのだったな、そうだ。


「おはよう舞奈さん。ありがとう。朝はパン屋でパン買ってくるけれども、それでいいでしょうか?」


このあたりはパン屋が多い。毎日それを食べれば朝はやっていける、という考えでいた。


「へへ!」


舞奈はなにか自慢げな顔をしている。


「朝ごはん、作ってあるよー!」


「舞奈さんが?」


「そ。うーん、味は保証できないけれども。」


「いえ、いただきます。」


「そーこなくちゃ!学園のパンも美味しいけれどもね、たまにはこういうのもいいんじゃないかって。どうせパンしか食べてないでしょう?」


今日は日曜日だ。早起きして作ってくれたのだろう。


「じゃあ、とりあえずそこをどいてもらって。」


「えー、このまま一緒に寝ようよぉ!」


「せっかく作っていただいたご飯が冷めないうちに、ね。」


「うぅ……。」



「どう、美味しいかな?」


「うん、おいしい。だし巻き玉子、御殿場のウインナー、これは冷蔵庫にあったやつかな。」


「あったりー!」


「炊飯器の使い方もお手の物だね。御飯も美味しいよ。」


「やったー!ありがとう、おにいちゃん!!」


「いいえ、ごちそうさまでした。」


こんな家族らしいことをしたのはいつ振りだっただろうか。悪くはない。


「予定がなかったら、川沿いの桜でも見に行きましょうか?」


「いくいくー!」


散歩して、午後は仕事でもこなそう。



その晩、日が落ちた頃。


大川先輩から通話が来た。


「オヤジの関係で今から会って欲しい人がいるのだけども、大丈夫?」


「いいですよ、舞奈さんのことでしょうか?」


「そういうこと。時間がないところ悪いね。」


「いえ、まだここに落ち着くまで時間はありますので。」


「場所は駅のバスターミナルになってる方の出口で。あとで時間はメッセするよ。じゃよろしくー。」


「承知いたしました。」


メッセージが届いて、時間ぴったりに、学園の駅の人通りが少ない入口に立っている。


すると、向こうから、山高帽を被って、スーツに身を纏った初老の男が歩いてきた。


手には紙片がある。


なるほどね。あれを受け取ればいいのか。


すれ違いざまに、山高帽の男は紙片を手に渡して、そのまま去ろうとする。


すかさず、男にこちらから声をかけた。


「私は、誰かと会話するのが好きでね。」


「私は、そうではないのです。」


「職務上、かな?」


「お察しください。」


紙片を受け取ると、そこに記してあることを読んで驚きながら、とりあえず早急に家に帰ろうと考えた。舞奈を残してきている。


「ただいま。」


こういうことは舞奈には内緒にした方がいいと思ってこっそり出てきたけれども、そういえばIDの交換もしていなかった。


「おかえり。」


弱い声で、でもしっかりそういうと、舞奈は少し怖い顔でこちらの目を睨んでいる。次の瞬間、私は自分のミスに気がついた。


「どうして不機嫌なのか、わかるよね?」


冷たい声に聞こえた。怒っている、というよりは、突き放すような声だ。


「申し訳ない。ID交換しよう。GPSで居場所も把握できるようにするよ。」


「うん。お願いだから、そうしよ?」


「きちんと連絡取れるようにします。以後気をつけます。」


「そうだね。うん、わかってくれたらそれでいいの!GPS、よくわからないけれども、お願いして、いい?」


「任せて。」


ID交換して、GPSで互いに居場所がわかるようにした。


「ごめんね、おにいちゃん。でも、わたしにとって、これってすごく大切なことなの。」


「そうだよね。不安にさせた。申し訳ない。」


「うん。」


舞奈は納得したようだ。


「じゃあ、わたしお風呂入ったら部屋で勉強するね。」


「ええ。」


そうして、ほどなく舞奈は日常の姿に戻っていった。


けれども、こちらはそうはいかない。部屋に戻って、紙片を確認すると、冷や汗が出た。


「これが本題、だな。」


ひとりで、静かに呟いた。これは家族の問題ではない。かなりの面倒に巻き込まれた。一方で、ワクワクがとまらない。こうでなくちゃ、ここに来た理由がないままだ。

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