遠藤さんとショーン 2
みんなが帰ってから、舞奈と私はリビングでくつろいでいた。
「恋って難しい。」
「舞奈、どうした急に?」
「ん、さっきの遠藤さんとショーン見ててさ、あんなに仲いいのに、これ!っていう恋愛にならないのってさ、なんか、ね。」
「奥手なのかな、ふたりとも。」
「ほら、おにいちゃんはまたそんな単純に。」
舞奈が呆れた顔をしてこちらをみる。
「恋ってさ、時間的に奥手だとか、早いとか、深いだの浅いだのって定義できるの?突然だったり、時間がかかったりしても、恋することに理由ってある?」
「確かに。ない、ね。」
舞奈が続ける。
「理由なんてないけど、ふたりとも恋してるんだよね。」
「見ている分にはそうだよね。」
「でも、ショーンはもっと遠藤さんと親密になりたいんだよ。」
「じゃあ、遠藤さんになにか引っかかるところがある?」
「そういうことかな。」
「なるほど。」
確かに、舞奈の言う通りだ。恋愛に科学的根拠なんて、ない。
だって、ふたりは、恋してるのだもの。
翌日。みんなで遊んでいるところ、私と舞奈は抜けて、別室に遠藤さんを呼んだ。
舞奈がはじめる。
「遠藤さんってさ、どうなの?その、恋愛とか。」
「自由な恋愛とかロマンティックな恋に、憧れてるんだよね。」
「すればいいじゃん、そういう恋愛。」
「でも、あいつ、モテるからさ。わたしと釣り合わないよ。」
「あいつ、って、やっぱりショーン?」
「そうだよ。」
「遠藤さんだって、人当たりも顔立ちもいいし、そこは関係ないでしょう?」
「わたしだって、もっとショーンに近づけたらいいと思う。けれども、今の関係を壊してまで、そういう踏み込み方するのも、なんかさ。」
私は口を挟んでみる。
「怖い?」
「昔は、お見合いみたいに、家同士で結婚をすることで、一生それは終わらなかったんだよね。」
「うん。それ以前は『交換』だったね。」
「でもそれが、ロマンティックな恋に移り変わった。ふたりは愛し合い、結婚して結ばれる。本当にそれでいいのかな、ってね。」
「というと?」
「結婚したら、男性の浮気は許されて、女性のそれは厳しく追求される。そういう変な縛りの道徳的な関係って、フェアじゃないじゃん。だから、怖くてさ。もしショーンが、浮気したりしたら、すごく嫌だから。ショーンの嫌なところ、みたくないんだ。怖いんだよ。なんかさ。きれいなあいつをみていたいんだよ。」
「不安なんだ。でもそれって先のことじゃん?未来のことって、予測できないからさ。」
「だから、怖いんだよ。」
目を潤ませる遠藤さんの頭に、ポンっと手を置く。
「今の関係性は覆ったりしないよ。でも、まだはじまってもいない。付き合うって、ほんのちょっと先の、『蓋然性』の高い、確からしい未来だよ。」
「本当に?」
「ほら、力を抜いて、ちゃんと目を見て。」
「うん。」
「きみの本心は、そうなのかい。」
「好き。大好なの。」
「大丈夫。」
「うん。」
「遠藤さんの思いは伝わるよ。」
「本当に?」
「安心して。力を抜いて、楽にするんだ。」
「うん。おにいさん、わたし、ちゃんとできるかな?」
「できるよ。大丈夫。」
嫉妬気味の舞奈が制する。
「ちょっとおにいちゃんと遠藤さん、わざとやってない?」
「その、ノリで。」
「ノリ、みたいな。」
「まあノリは重要だからね。」
舞奈は納得をする。
一方、リビングでは小原さんとショーンが静かな対話をしていた。
「遠藤、恋愛観が、結婚前提になってる。そして、ロマンティック・ラブ。」
「ロマンティック・ラブって?」
「いわゆる自由恋愛。でも、少し古い。」
「へえ。」
「恋人同士って、まずは手を繋ぐとか、そういうところからなんだけど、それさえ怖くなってる。」
「うん。」
「ふたりがもっと親密になれば、きっと今はまだできない、いろいろなこともできるし、信頼関係も生まれる。なにより、かけがえのない関係を体験できるようになると思う。ショーン。」
「なに?」
「押せ。」
「えっ。」
「遠藤押しに弱い。」
「うん。」
「今すぐ押さなくてもいい。でも、連立方程式の解は出せる。」
「わかった。小原さん。」
「ん。」
「ありがとう。」
「うん。」
ドアを開けて、リビングの小原さんとショーンに合流する。
「遠藤。」
「おう、どうした小原?」
「やれば、できる。」
「おう!」
みんなが帰ったあと、私はショーンにメッセージを送った。必要ないかもしれないけれども、助け舟だ。無理はするな、でもがんばれよ。




