遠藤さんとショーン
朝。靴箱に、舞奈と遠藤さん、そして小原さんがいる。
「よお舞奈。」
「おはよう舞奈。」
「おっはよー!んん?」
「なんだまたラブレターか?モテるな舞奈。」
「モテモテ。」
「ええ、誰だろう。」
「まあどうせまた断るんだろ?」
「断るの大変。」
「あとで考えるよ。プライバシーだから差出人は秘密ね。」
「そうだな。」
「真剣な恋、笑っちゃダメ。」
大川先生の授業中、舞奈はこっそり中身を確認する。
「放課後、校庭の隅?差出人は、書いてない。」
そして、放課後。
やってきたのは、一見でハッとするような美男子だ。日英のルーツを持つ松川松太郎、通称はショーン。舞奈の幼稚園からの同級生だ。
「ねえ、これ、ショーン?」
「うん。」
ショーンは、シューゲイザーのように靴先を向いてそう答える。
「ショーン、わたしのこと好きなの?」
「うん。でも、そうじゃない。」
「そうじゃない、って?」
「ただいまー、おにいちゃん!」
「おや、舞奈が男の子を連れてくるなんて珍しいですね。」
「うん、ちょっとね。さっき校庭の隅に呼び出されて告白された。」
「なる、ほど?!青春だねえ!」
「違うの。うちのおにいちゃんにどうしても会いたいって。」
「へ?」
まじかー。
「ショーンね、遠藤さんのことが大好きで。最近遠藤さん、おにいちゃんとなかいいでしょう?それでね。」
ああ、そういうことか。それにしても、随分長くかかる工程を踏んできたな、この子。しかも舞奈に事情全部知られちゃって。
「ショーンね。引っ込み思案で、なにをやっても失敗して、遠藤さんが助けてくれる感じ。ね、ショーン。」
「うん。」
「おにいちゃん、ショーン、悪い子じゃないよ。遠藤さんにもまっすぐ。成績もすごくいい。」
「なるほど。」
ショーンの顎をクイッとして、顔をこちらに向ける。
「ほら、ちゃんと目を見て。」
「うん。」
「きみの本心は、そうなのかい。」
「好き、です。大好きです。」
舞奈がイラッとした表情でこちらを見ている。
「それ意味あるの、おにいちゃん。」
「様式美だよ、舞奈。」
「なにそれ。なーにーそーれー。」
不安そうな表情のショーンの頭に、今度はポンっと、手を乗せる。
「大丈夫。」
「うん。」
「きみの思いは伝わるよ。」
「本当に?」
「安心して。力を抜いて、楽にするんだ。」
「うん。おにいさん、ぼく、ちゃんとできるかな?」
「できるよ。大丈夫。」
嫉妬気味の舞奈が制する。
「ちょっとショーン、あんたわざとやってない?」
「その、ノリで。」
「まあノリは重要だからね。」
舞奈は妙な納得をする。
とはいったものの、肝心の遠藤さんがどうなのか。確認しないとね。そう、じっくりニヤニヤとね。
翌日。舞奈が、遠藤さんと小原さんを連れてきた。ショーンも呼んである。
「お、ショーンじゃん。なにしてんの?」
私が少しおせっかいを入れる。
「いや、彼とは友だちになってね。なかなか面白いんだよね。」
「そこ接点あったんだ。」
「うん。」
ショーンが頷く。
「一緒に遊びたくて。」
「そうかー。でもだべってるだけだぜ?」
「それでもいい。」
「おう、じゃあとりあえずおにいさん、なんか出して。」
「はいはい。今日はそこの駅前のケーキ。奮発したよお!」
「いいじゃん!」
ショーンが呟く。
「紅茶。入れるよ。」
「おう、頼むぜー!ショーンの入れる紅茶は本物だからな!」
「うん、遠藤さん。」
なかよしだ。でも、パンチが足りない。なにかパンチが。
遠藤さんがキッチンの方に向かう。
「おいショーン、カップ3つくらい一気に持っていくつもりだろう?やめときな。ほら、持ってやるから。」
「うん。」
おお、遠藤さん、なかなかいい顔をするなあ。
「これを越えていかなければいけない。」
「どういうことかな小原さん。」
「あいつら、もうデキてるけれども、ショーンにひと押し欲しい。」
「ほう。一押し、とね。」
「それが難しい。」
「なるほど。」
自分の暗い青春時代をふと思い出す。ショーンのように、うじうじしながら、結局勉強に逃げた、あの日々。ショーンのようには美男子ではなかったけれども、もどかしさを自分の過去に重ねる。けれども、あまりやり過ぎても、お説経おじさんになってしまう。それでは誰も得しない。
まあでも、とりあえずお互いの意思が通じ合っているという確認はできた。どう助け舟を出すか。
そうだな。ショーンだけでなくて、遠藤さんに心を開いてもらおうか。さて、どうしたものか。




