表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4.帰宅

「それで? 家はどこなの?」


「・・・あっちだけど・・・」


 躊躇いつつ、僕が指差したのは、暗闇の先。僕はこの街の住人だから、それぞれの建物の位置を把握している。位置関係を把握できている。


 しかし女性はそうではない。彼女は僕が指差した方向に目をやると、一言呟く。


「よく分からないわね」


 そう言いつつも、女性は僕の手を引き、歩きだした。






「ねぇ、大丈夫なの?」


 帰路に着いている道中、僕は聞いた。


紅紫色こうし しょく狂殺者きょうさつしゃ】が現れたのなら、この街にいるのなら、いつ襲われるか分からない。それなのに女性は特に急ぐこともなく、悠々と歩いている。そんな彼女に対し、安全かどうかを僕は尋ねたのだ。


 すると女性は足を止め、振り返る。


「え? あ~・・・、じゃあ、貸してくれる?」


 そう言って左腕を差し出してきた女性。その仕草に対して、僕の理解は追いつかない。


「ランタンを貸してくれるんじゃないの?」


 女性のその言葉で、ようやく僕は気づく。


紅紫色こうし しょく狂殺者きょうさつしゃ】に関して安全かどうかを僕は尋ねていた。しかし女性は、暗闇に支配されている夜道の安全性に思いを寄せていたようだ。


 僕はランタンを渡し、改めて聞く。


「襲われたりしないかな?」


「大丈夫よ、ワタシたちは悪人じゃないから」


 またも出現した単語。女性はそう言うと、再び歩きだした。




 僕は自分のことを悪人だとは思わない。しかしそれを言うなら、街のみんな───殺されていた人たちだって、そうだ。この街に悪人なんて一人もいない。


 だけど、みんな───肉屋のスビアさん、八百屋のユルグさん、酒場のエウロレアさん、木工職人のチャルストンさんたちは、殺されてしまった。そして、他の人たちも。


 そのことを言おうとしたとき、女性は立ち止まった。


「ねぇ、ここから先は、どっち?」


 分かれ道に辿り着いたことで、女性は振り返った。僕は先程考えていたことを一旦頭の隅に追いやり、道案内をする。


「僕が前を歩くから、着いてきて」


 そう言ってランタンを返してもらうと、僕は自宅へと急いだ。そんな僕に手を引かれて、女性の足取りも早くなった。






 やがて自宅前に着き、僕は女性に言う。頭の隅に追いやっていた疑問を口にすることにしたのだ。


「ねぇ。この街に悪人なんて、いないよ? だけど、みんな殺されちゃったんだよ? だから僕たちも───」


「大丈夫よ、ワタシたちは大丈夫。とにかく家の中に入りましょ」


 そう言うと、女性は僕の背中を押してきた。






「とりあえず落ち着くために、水でも飲めば?」


 家の中に入ると、女性が言ってきた。その言葉を受け、僕はランタンを片手に戸棚からコップを出そうとする。


「ワタシが持っててあげるわ」


 女性はランタンを受け取り、戸棚を照らす。そうして僕は二つのコップを出し、水瓶が置いてある場所へと移動する。そして女性は、僕のあとをついてくる。僕の足元を照らすために。


「はい、貸して」


 コップを一つ受け取った女性。そうして空いた手で、僕は水瓶の蓋を開け、柄杓を握る。




 程なくして、テーブルの上にはランタンと、水を湛えたコップが二つ。そして僕たちは、イスに腰掛ける。


「ねぇ、大丈夫って、どういうこと? なんで、僕たちは襲われない───って言い切れるの?」


「【紅紫色こうし しょく狂殺者きょうさつしゃ】は、悪人しか殺さないのよ。キミは悪人じゃないでしょ?」


 僕は悪人ではない。だけど、そんなことは関係ないんだ。だって・・・、みんなは殺されてしまったんだから。


 僕はもう何度も思っていることを、そしてすでに女性に対して言ったことを、言葉にする。


「だけど、みんなは───」


「イイから、落ち着きなさい。ほら、水を飲んで」


 些か声を荒げた僕に、女性は穏やかに言った。その言葉を受け、僕は水を飲む。一口、また一口と、ゆっくりと飲んだ。


「キミはここで静かにしてなさい。あとのことは、ワタシがなんとかするから」


「でも、アブ・・・、アブない・・・よ・・・」


 なんだろう、急に眠たくなってきた。夜半に起きたからだろうか。それとも、信じられないようなことに直面したからだろうか。


 ともかく、疲労のためか、心労のためか。僕の瞼は重くなり、意識は遠のいていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ