3.子ども扱い
「とにかく、こんな夜中に子どもが一人で出歩いていたら、危ないわよ。さぁ、おウチに帰りましょ」
優しく諭した女性は僕の頭を撫でてきた。朗らかな笑みを湛え、優しく撫でてきた。しかし、僕は激しく抗う。言葉と態度によって。
「僕は子どもじゃない! もう十五になってるよ!」
そう、僕は今年で十五になった。年明けに十五歳になった。つまり、大人になったのだ。
だから叫んだ。大きな声で大人であることを伝えた。すると女性は、目を少し見開くと共に口を半開きにしたあと、眉をしかめた。そうして若干の戸惑いを見せながら、言ってくる。
「え、十五? そんな風には見えないけど・・・。どう見ても、まだ十二くらいにしか見えないわよ?」
その言葉に、僕は唇を噛み締めた。
僕は背が低い。更には顔つきが幼い。だからこの街の人たちからも、からかい半分で弄られている。しかし彼ら彼女らに悪意はなく、僕も不快感を持ったことはない。
それは一種のコミュニケーションであり、定番のやり取り───ともいえる。だから街の人たちに悪意や敵意はないし、僕には不快感や嫌悪感は降り積もらない。
しかし、今は違う。
不快感や嫌悪感は姿を現さなかったものの、劣等感が現れた。
絶世の美女からの、子ども扱い。
その状況に対し、僕は歯痒い思いを募らせた。目の前の女性は背が高く、とても美しい。その一方で僕は背が低く、幼く見える顔立ちをしている。そのことに対し、僕は劣等感を感じていた。
街の人たちから子ども扱いをされても、なんとも思わない。だけど、どういうワケか、この女性から子ども扱いをされるのは、なんとも癪に障る。彼女から子どもに見られることに対し、激しく抵抗したくなる。大人の男として見て欲しい───と願ってしまう。
「まぁ、十二でも十五でもイイけど、とにかく帰りましょ。キミの家はどこ?」
未だ僕の頭に右手を乗せたまま、女性は言った。未だ子ども扱いをして、言ったのだ。そんな彼女に、僕は反発する。
「一人で帰れるよ! 僕は子どもじゃないんだから!」
「そう? でも、危ないわよ?」
心配そうに僕の顔を覗き込んだ女性。彼女は僕よりも背が高い。その差は、頭一つ分に近い。そんな彼女が少し腰を落とし、僕の顔を覗き込んできた。それにより、魅惑的な切れ長の目が僕の顔に近づいた。そして、魅力的な唇も。
その状況に、僕はたじろぐ。胸の奥がキュッと締めつけられ、思わず顔を背ける。
その視線の先には、教会の扉。
そこで僕は現実に引き戻された。思い出したのだ、さっきの光景を。だから僕は再び女性の顔を見て、叫ぶ。
「そ、そうだ! みんなに伝えないと!」
街の人たち───肉屋のスビアさん、八百屋のユルグさん、酒場のエウロレアさん、木工職人のチャルストンさんが死んでいることを、殺されたことを、他のみんなに伝えないといけない。
【紅紫色の狂殺者】が現れたことを伝えないといけないのだ。
「それならワタシがなんとかするわ。だからキミは、おウチに帰りなさい。ほら、送ってあげるから」
女性は腰を伸ばし、僕の手を取った。そうして教会前の階段を下りていく。そんな彼女に腕を引かれ、やがて僕の体は地表に降りた。




