2.絶世の美女
教会内の死体はどれも、血塗れだった。
まさかの、そしてあまりの光景に僕の頭は混乱し、声を出すことすら出来なかった。しかしすぐに、その混乱は収まる。あることに気づいたからだ。
教会の中に転がっている死体の顔には、見覚えがある。
肉屋のスビアさん、八百屋のユルグさん、酒場のエウロレアさん、木工職人のチャルストンさん・・・。
その顔のどれもが苦悶の表情を浮かべたまま、固まっている。全ての死体の顔を拝むことは出来ないが、おそらくはその全員が街の人だろう。
「なに、坊や? こんな時間に」
目の前の女性が声を発した。その声につられるように、僕は視線を上げると同時に、ランタンを持つ手も上げた。それに伴い、女性の顔が露になる。
「っ!?」
思わず息を飲んだ。
僕の目に映ったのが、とてもつもない美女だったからだ。
切れ長でパッチリとした目、キレイに通った鼻筋、艶のある唇。それらを併せ持っている顔は、なんとも言えない美しさを有していた。
そんな彼女の髪は朱色。そして肌はオレンジ色に染まっている。しかしそれは、ランタンの明かりに影響されてのモノだ。
「えっと、あの・・・」
顔見知りの無数の死体と、見知らぬ絶世の美女。その不可解な組み合わせに、僕は言葉に詰まった。
「あぁ、アレ? イヤなモノを見てしまったわね。でも大丈夫、アタシたちは死なないから」
そう言うと女性は教会から出てきて、扉を閉じた。
「坊やの家は、どこ? アタシが送ってあげるわよ」
穏やかな顔で聞いてきた女性。あんな光景を目の当たりにして、どうしてこんなに落ち着いていられるのだろうか。
「そ、それより! みんなに知らせないと!」
教会の死体は、【紅紫色の狂殺者】の仕業に違いない。最近この街の近くにその魔族が現れたことを聞いた。おそらくは、この街にやってきたのだろう。だから一刻も早く、街のみんなに知らせないといけない。
「なにを?」
キョトンとして小首を傾げた女性。その様子に、僕は声を荒げる。
「あんなにたくさんの人が死んでるのに、なんでそんなに落ち着いてるの!?」
「あぁ、それはね・・・。アイツらは、悪人だからだよ」
その言葉に、僕は固まった。
・・・悪人? スビアさんが? エウロレアさんが?
「悪人は殺されても、仕方ないよね?」
女性は柔やか笑顔で、そう言った。




