表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1.とある夜の出来事

 魔族は人を襲い、人を喰らう。


 昔から、そんな話を聞いてきた。


 しかし実際に、そんな恐ろしい光景を目にしたことはない。


 そして、目にすることなど一生ないと思っていた。






 僕───レオン・ヒルデカントは、小国ヘンズワースにて暮らしている。


 ヘンズワースはとても小さな国で、そのほぼ中心にある都から国境までは、乗合馬車で二日も揺られれば到着する。つまり、この国を縦断───もしくは横断するために必要なのは、たったの四日間。乗合馬車で四日しか掛からないのだから、馬を飛ばせば二日も掛からないだろう。


 ヘンズワースは、それくらいに小さな国なのだ。更に言えば、そんな小さな国の小さな街、ダルタスにて僕は暮らしている。この街は一年を通じて温暖な気候に恵まれ、人々の気性は穏やか。争いごとは滅多になく、皆が仲良く助け合って暮らしている。


 なんとも平和な街。それがダルタスだ。




 だけど最近、イヤな噂を耳にした。


 それは、【紅紫色こうし しょく狂殺者きょうさつしゃ】と呼ばれている魔族の噂。


 その魔族は、紅紫色の髪と瞳を持ち、圧倒的な戦闘力を有しているらしい。魔族は皆、一応に恐ろしい存在なのだが、【紅紫色の狂殺者】は別格だ。


 紅紫色の髪を振り乱し、同じく紅紫色の瞳を爛々と輝かせ、怒り狂い、暴れ狂い、猛り狂い、人々を殺していく。そうやって多くの人間を殺してきたし、そして今もなお、殺し続けている。


 そんな魔族が、この街の近くに現れたそうだ。








 ある日の夜、僕は目を覚ました。なにか聞こえたような気がしたからだ。真っ暗な部屋の中、僕はベッドから体を起こし、手探りでテーブルを見つけ出す。


 四人掛けのテーブルの上には、いつも寝る前に最新式のランタンを置いている。そのツマミを捻ると、オレンジ色の明かりが灯る。それにより、部屋の中は仄かに明るくなった。


 数年前までは火を用意しなければいけなかったが、今はツマミを捻るだけで明かりが灯るのだから、便利な世の中になったものだ。


 そんなことに感心しながら、耳を澄ませる。


 するとまた、なにか聞こえた。


 僕はランタンを手に、玄関扉へと向かう。






 外は、闇。


 今宵は月の姿はなく、街は完全なる闇に包まれている。家々の窓から漏れている光はなく、その状況から今が夜半であることを窺い知れた。


 そんな闇の世界の中で、唯一の明かりは僕の手元にあるのみだ。ランタンを少し上げ、周りを見る。しかしその明かりは弱く、あまり遠くまでは光を運んでくれない。街の様子を窺うには、かなりの力不足。そんな中、僕はまた耳を澄ませる。


 するとやはり、なにか聞こえる。


 それは、人の声のようにも聞こえた。




 僕は家の前から歩を進め、比較的広い通りにまで体を運んだ。そこから辺りを窺うが、見えるのは闇の世界のみ。僕のランタンでは自分の足元を照らすのが、やっとだ。大人しく帰宅しようかと思ったが、そのとき、またまたなにかが聞こえた。


 それは、たしかに人の声。それも叫び声だ。


 僕は声がした方へと、足早に進んだ。






 体を進めるにつれ、叫び声は大きくなる。しかしそれは、先程の声とは音色が違う。それどころか何度か聞こえてきた叫び声は、毎回その音色が違っていた。




 やがて辿り着いたのは、街の中心付近に位置する教会の前。叫び声は未だに続いている。継続的にではなく、断続的に。そしてやはり、その音色は毎度異なっている。


 僕は恐る恐る階段を上がり、教会の扉に手を掛けた。




 すると、ひとりでに扉が開く。


 僕は手を掛けただけで、押してはいないし、引いてもいない。それなのに教会の扉は、僕から遠ざかるように開いた。


 扉が開いた先にいたのは、一人の人物───いや、一人の女性だ。その顔は見えてはいないが女性であることは、たしかだ。


 垂れている僕の腕の先にあるランタンの明かりは、目の前の人物の足元から胸の辺りまでを照らしている。そしてその胸の辺りには、黒い布地に隠されている大きな膨らみ。それにより、その人物が女性であることが分かった。


 女性の背後には、明かり。どういうワケか、夜半の協会に明かりが灯っている。それは、僕のランタンよりも遥かに力強く灯っている。とはいえ、その明かりが女性の顔を照らすことはない。逆光になっているためだ。しかし、照らされているモノはある。


 それは、無数の死体。


 教会の中には、いくつもの死体が転がっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ